第93話
お前が出ろと言わんばかりの母親の視線に敗北し、重い腰をのっそりとソファから上げた私は玄関へと急ぐ。
通販番組の立派な金づるである雪乃の事だ。
また何か良からぬ物を注文してそのブツが届いたのだろう。
「いつも秒で飽きる癖に懲りないな。」
宅配便のお兄さんの訪問だと勝手に決めつけた私は、判子を持って玄関を開いた。
「はーい。」
ジリジリと焼ける暑さがまだまだ続いている玄関の外。
そこには、残暑などどこ吹く風かのように汗一滴も浮かばせていない王子様が立っていた。
「こんにちは、ご機嫌いかが?お姫様。」
「……ジ、ジーザス。」
コロンコロン
手から零れ落ちた判子が玄関に転がる音が鳴り響く。
それに意識を向ける余裕なんてなかった。
「ふふっ、その様子だと元気そうだね。」
私のすぐ目の前で顔を綻ばせたのは、幼馴染の夢月だった。
刹那、思い切り気を抜いてだらしない服装をしている自分に気付き、死にたくなる。
無理…こんなダッサい洋服を夢月に晒してしまったよ。
『肉喰いたい』そうでかでかと書かれたTシャツをよりにもよって着ている己を呪い祟りたくなる。
夢月が来るなら言ってくれよ神。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます