第88話
躊躇なく私の身体を抱き締めてくれるこの男は、狡い。
「…馬鹿。」
「ククっ…ああ、俺は馬鹿だ。だから思った事はちゃんと言え。紫陽花や麗龍の連中みたいに真白の心を読む事なんてできないからな。」
「せっかく良いよって言ったのに。」
「だな。惜しい事したかもな。」
「そうだよ。私みたいなね、可愛い女が誘ってくれる機会なんてもう二度とないかもね!!!」
「大丈夫だ、俺は顔が綺麗だから機会はある。」
「死ね。」
冗談だ。そう言って声を上げて楽しそうに笑っているけど、あんたのそういう冗談はこれっぽっちも冗談に聞こえないんだよ。
余計ハラハラするんだよ。
誰かに奪われてしまわないか、怯えてしまうんだよ。
「ほら、言ってみろ。全部受け止めてやる。」
「……どうして剣が私の事を好きなのか分からない。」
「ああ。」
「こんな可愛くもないしゴリラみたいに凶暴な私なんかの何処が良いの?」
「おい、ゴリラじゃなくてゴジラの間違いだろ。」
「ぶっ殺されたいのかお前。」
「んだよ、元気じゃねーか。」
破顔した剣が表情をくしゃりと崩して私を強く、抱き締める。
「そういう所だ。」
「はい?」
「俺にとって、真白は世界で一番可愛くて優しくて良い女なんだよ。」
「……理解できない。」
「お前馬鹿か?」
「あん?」
鋭く剣を睨みつけても、相手は嬉しそうに肩を竦めて「その可愛い顔は俺だけに見せろよ」なんて事を平然と言ってのける。
大きな手が私の頬に落ちた涙を拭ってくれる。
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