第84話
椅子の上で胡坐をかいている相手の視線は凛としている。
少し不貞腐れた顔をして、手招きをする剣の行動の意図がさっぱり汲めずに首を横に倒した。
…まぁ、この男の言動の意図を理解できた事なんてほとんどないけど。
「どうしたの。」
「どうしたのじゃねぇ。折角初めてのちゃんとしたデートだと思ってワクワクしてたのに、すっかり邪魔だらけだ。」
盛大に表情を崩してぼやく剣が、深い溜め息を吐き出した。
初めてのデート。
その単語に浮足立っていたのは私だけじゃなかったらしい。
「ふふっ。」
「何が面白いんだよ。」
「別に。」
「はぁ?何だよ、独り占めかよ俺にも共有しろ!」
私の彼氏は、素直な人間だと思う。
素直過ぎると思う。
椅子から立ち上がって歩み寄ってくる相手の顔には次から次へと露骨に感情が浮かんでいる。
「まさかまた紫陽花やら飛鳥やらあの呪怨の事を考えてたりしないよな?」
「え、妬いてるの?」
「当たり前だろ。好きな女が他の男の事考えてて気分が良い人間がいるかよ。」
いつも無造作にセットされている髪が、お風呂に入ったのかぺちゃんこになっている。
それだけでもやたら艶っぽい剣にドキドキしていたのに、手を伸ばせば触れられる距離にまで来た彼の前髪越しに覗く瞳はもっと妖艶だ。
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