第78話

おい虎雅の人間達はまだなのか!?!?さっさとこの人間をりー君から引き離しておくれ。




きょろきょろ辺りを見渡してみるけれど、虎雅どころか麗龍の人間もいない。






「……うるさい。」





ぽつり



小さく、本当に波風に掻き消されるくらいに微かに、りー君の口から漏れた声。



自然と私の視線はそこへと惹き付けられる。




やっと紫外線が毒だと気づいたのかサングラスをかけた剣が、脚をクロスし腕を組みながらりー君を見つめている。



何で一々鼻につくポーズをするのよ。





「心は男だもん。ただ、可愛い物が好きで可愛い服が着たくて、それでっ…それに合わせてウィッグつけたりしてるだけだもん。こんな風に急に男の子に戻るのってそんなに変なのかなぁ。」





声を震わせて独り言の如く吐露したりー君の綺麗な瞳には、珍しく涙が浮かんでいる。



砂浜に溶けた彼の言葉は…私に向けてでも、剣に向けてでもないような気がした。





ぐしゃり



躊躇なく、剣がりー君の頭をわしゃわしゃと撫でまわした。



雑!!!相手はドーベルマンじゃねぇんだぞもっと丁寧に扱えよ!!!!





「ちょっと!触るな…「全然変じゃねぇ。」」





嫌悪感を滲ませたりー君が、色素の薄い地毛を掻き乱す手を捕らえる寸前、剣の凛とした声が響いた。





「何も変じゃねぇよ。良いじゃねぇか。普通の男なら線が太くてできない事をお前は似合ってるし、それが好きなんだろう?それならそれで良いじゃねぇか。誇れ!」




白い歯を見せて、満面の笑みで迷うことなくそう言った剣を見て思う。




こういう所だ。



この男の、こういう所に…私はまんまと惚れて恋して愛してしまっているんだ。

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