第76話

ほんの数秒で離れてしまった唇に、名残惜しさを感じてしまう自分を頭の中で往復ビンタする。



だんだん剣化してきてしまっている気がする己の思考回路が恐怖でしかない。



絶対特効薬とかないもんね、滝行とかに行くべきか…。





「ていうか、これの方がエロいな。」


「……。」


「むしろ、そそる。」


「……っっ。」





身体の線をなぞるようにして、撫でる剣の掌の熱に変な声が出てしまいそうで必死に耐える。



頭の中で読経する。



払え!煩悩を払うんだ私!南無阿弥陀仏!





「そういう嫌らしい触り方、禁止だから。」


「いってぇえええええ!!!!」




え、何事!?!?



完全に僧侶モードになっていた私は、突然鼓膜を突き刺してきた叫び声に閉じてた瞼を持ち上げた。




開けた視界にまず映ったのは、砂浜に蹲っている我が彼氏。




「容赦なく抓ったな!?」


「当たり前じゃん。僕の真白を変態親父みたいに撫でてるんだもん。死ね。」


「最後の一言何だ!無駄に傷ついた!!!!」




前から思ってたけど、あんたメンタル弱小だよね。



私の肢体に腕を絡ませてあっかんべーをしているりー君を、蹲っている男が涙目で睨み付けている。




「何の権限で僕の真白に触ってるの?」





うん、一応この人、私の彼氏なんだよりー君。


触る権限めちゃくちゃあるんだよ。




頬に掛かるくらいの横髪を耳に掛けながら、長い睫毛を瞬かせているりー君の横顔はもう美しいったらない。

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