第75話

私が散々悩んだ挙句に人生で初めて購入した水着は、黒のドット柄が全体にあしらわれた純白のモノキニビキニだった。




「一応これ、モノキニビキニって言うからビキニだよ。」


「反則だろ。」


「何基準でだよ。」




これはファッションの先生である、かの有名な沖田宵におススメされた水着だ。



ワンピースにも見えるデザインだけど、胸元ががっつり開いているだけでなく、背中はほとんど裸かってくらいリボンが交差して素肌を露出させている。





私にしてみればこれでもかなり冒険した方だし、勇気を振り絞った方だ。



それなのに、肝心な彼氏はお気に召してくれていないらしくて、顔にこそ出さない物の心では今にも号泣しそうだった。





「ふざけんな。」


「きゃっ。」




未だに手で綺麗な顏を覆い隠したまま、相手が器用に私の腰に腕を巻きつけて抱き寄せる。


こんにゃろう、手慣れてやがるな。



分かってはいるけれど、こういうふとした女の扱いに慣れている剣を見る度に、今まで関係を持った事のある女共に嫉妬を燃やしている。






「マジふざけんな……可愛い。」


「へ?」





どんな不満を吐き出されるかと思っていた矢先、私の耳元で囁かれた一言で、見開いた目を瞬かせた。



今…何て言ったの?



私の都合の良い幻聴?





「可愛いって言ってんだよ…似合ってる。知ってたけど世界で一番可愛い。」


「んなっ……。」


「狡い女。」




落ちて来た言葉が、悪戯に耳を擽る。




「また惚れちまったじゃねーか。」


「何言って…んっ……。」




顎を掴まれ、不敵な笑みを描いた美しい男に唇を塞がれる。




狡いのはどっちだ。



いつだって、私が一番求めている言葉を容易に囁くこの男の方が…よっぽど反則だと思った。

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