第28話

「好きだよ。」




私よりも全然大きい身体をめいいっぱい抱き締めて、ひっそりと耳打ちする。



数秒もしない間にその耳が赤く染まるのが可愛くて、自然と頬が緩んでしまう。






「……俺もだ。」


「うん。」


「俺も、大好きだ。」


「そうじゃなきゃぶっ飛ばす。」


「ククっ…おっかねぇな。」


「そうだよ、おっかない女を彼女にしたのはあんたでしょ。」


「ああ、世界で一番最高な女だ。」






私の肩から離れた剣の顏には、涙は消えて不敵な笑みがぶら下がっている。



ドキドキしている自分の心臓は、まだまだ治まってくれそうにない。






「それじゃあ真白行こうか。鬼帝君、せいぜい虎雅の皆で素敵な夏休みを過ごしてね。」





前触れもなく私の前に差し出された手。



王子様でしかない微笑を浮かべた夢月のもう片方の手には、私の鞄が握られている。



ついさっきまで私が持っていたはずのそれを、いつの間に取ったのだろうか。




英国紳士も顔負けな彼は、今日も今日とて美しい。





「誰がお前と真白を二人きりになんかさせるかよ。」


「…さぁ真白、一緒に帰ろうね。」


「あからさまな無視はやめろ。いじめだぞこれは教育委員会に訴えるからな。」




あんたみたいなのが教育委員会に乗り込んだ所で、誰も信じないよ絶対。



寧ろこいつがいじめの主犯格だと疑いの目を掛けられるだろ。




剣を空気のように扱って私の手を握り締めた夢月に、反射的に鼓動が跳ねる。




…ごめん許して。誰だってこんなイケメンに手を握られたらドキッとするもんだよね、そうだよね。だから私を殺さないで夢月ファンの皆様。




「お姫様、俺が責任を持ってご自宅までお届けします。」


「は、はい。心より御礼申し上げます。」


「おい!!!!!」





夢月の眩い笑みにあっさり敗北した私は、秒で首を縦に振った。

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