第26話
剣と夢月の喧嘩(と言っても剣が一方的に噛み付いているだけ)が長続きする予感しかしない私は、迫っている時間に気づいて慌てて帰りの支度を始める。
「鬼帝君もそのうち分かるよ、ただ君と真白が二人きりで夏休みを過ごす事は絶対に不可能だよって言っておくね。」
「言っておくねじゃねぇよ!!!その理由を教えろって言ってるんだよ!!!朝からその爽やかな笑顔止めろ、歯磨き粉みてぇにスースーする笑顔しやがって。」
いやどんな例えだよ。
あの美しい笑顔に歯磨き粉って…あんたちょっと無礼が過ぎるよ。
「ていうか真白、何でお前そそくさと荷物まとめてるんだよ。まるで今すぐ帰るみたいじゃねぇか。」
「みたいじゃなくて帰るんだよ。」
「……え?」
「みたいじゃなくて帰るんだよ。」
「いや聞こえてんだよ、わざわざ二回も言うな。」
「あ、ごめん。余りにもあんたの顔が阿保面だったから理解してないのかと思って。」
お泊りセットの入ったバッグを持ち上げる私の正面で、何故か剣が涙を浮かべている。
「え…何で泣きそうになってるの気持ち悪…間違った、どうしたの?」
「お前気持ち悪いってのが本心だろ、ふざけんなどんな言い間違いだよ。」
「……欠伸でもしたの?」
だから涙が浮かんでいるのね、納得。
「違ぇよ。まず整った顏を阿保面だと彼女に言われて傷ついた。」
「はぁ?」
「そして、帰るって言われて…その……。」
「……。」
「寂しくて泣きそうになってる。」
「気持ち悪。」
「そこは胸キュンする所だろ。」
嘘でしょ、そんな理由で本気で泣きそうになってるわけ?
切れ長の目に雫を溜めている私の彼氏は、拗ねたように唇を尖らせてそっぽを向いた。
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