第25話

「おい、朝から人の女を誘惑しんてじゃねぇよ。」




キッチンに突然響いた不機嫌そうな声に、私から夢月の身体が離れた。



私達の視線は、揃って声の主へと伸ばされる。




そこには威嚇する狼の如く夢月を睨みつけている私の恋人が立っていた。



……とりあえずその実験に大失敗した博士みたいな寝癖どうにかしてくれ。笑いそうになる。





「おはよう鬼帝君、随分と間抜けな髪型をしているねとってもお似合いだよ。」


「うるせぇ!!!満面の笑顔で猛毒吐き散らしてんじゃねぇよ。ていうか真白を誘惑すんな。」


「誘惑?やだなぁ、誘惑じゃなくて不倫してたんだよ。」


「てめぇは今すぐ吊るしてやろうか?あん?」





何処のヤクザかお前は。



そして夢月に踊らされ過ぎだろ。操り人形かよ。





「そんな物騒な言葉遣いをするなんて感心しないなぁ鬼帝君。」


「おい真白ガムテープを寄越せ、こいつの口を封じてやる。」


「どんなプレイだよ。言葉で勝てよ。」





私を庇うように前に立ちはだかった剣の背中には「Hが好きだ。」の文字が刻まれている。



昨日は全然気づかなかったけど何だこのTシャツ。お前はどこまで性欲に従順なんだ。


ていうかこんな趣味の悪いTシャツ何処を探したら売ってるんだよ。




「今回はお前に邪魔されたけどな、俺と真白のイチャイチャラブラブ夏休みは絶対に邪魔させねぇからな。」


「ああ、それは叶わない君の夢だよ。哀れだね鬼帝君、ドンマイ。」


「ぁあ?昨日からお前は何でそんなに自信あり気に断言しやがるんだよ。」





こいつ、眉間にとてつもない皺を寄せて、般若の如く睨み付けている柄の悪い表情を浮かべているに違いない。



背後にいるせいで確認はできないけれど、手に取るように剣の顏が想像できる。

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