第22話

もっと長居したいけれど、実は私にはタイムリミットがある。



急いで皆が食べられる朝食を簡単に作って、果物の皮を向いていく。





「なーんで、俺にはほっぺにキスしてくれないの?」


「うわっ…。」





突然重みを感じた肩と耳元で甘く囁かれた声。



それに驚いた私は手から零れ落ちそうになった桃を慌ててキャッチした。




……いや違うだろ。何だ「うわっ。」って。


私ってば可愛くなさすぎるだろ。



どうして「きゃっ。」って言えないの!!!どうして携帯小説の俺様総長に溺愛されている無自覚な美少女ヒロインの如く「きゃっ。」って驚けないの!!!!



痛恨の極み!!!!





「ねぇ、聞いてる?真白。」


「き、きゃあ…。」


「ふふっ、わざと驚いてる姿も可愛いね。」



猫被ってるの秒で見破られたんですけど。草生える。


私の頬を指で突いて、こちらの顔を覗き込んできたのは麗しい微笑。




昔から思ってたんだけど寝起きでこんなに美しいって何事。


浮腫みとか知らないわけ!?!?!?





「だから、どうして俺にはおはようのキス、してくれないの?」



待ってたのになぁ。そう付け加えて拗ねたような表情を見せる夢月に身体が熱を帯びていく。






か、可愛い。



この人とうとう格好良い以外にも可愛いまで武器にし始めてるんだけど。



伸びしろ無限大かよ。





体温高くなり過ぎて、私の手に持たれた桃は煮え滾っていないだろうか。






「み、見てたの?」


「うん、寝たふりしちゃってた。鬼帝君だけ羨ましくてつい。」


「……っっ。」





剣の頬にキスしている現場を幼馴染に見られていた事実の発覚に、心から数分前に戻ってあの時の自分を全力で制したくなった。





夢月に見られてたなんて…恥ずかしい無理死にたい。

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