第3話

「世間的な男女交際はまず手を繋ぐ事から始めるんだよ。分かった?」


「……それは恥ずかしい。」


「照れる所可笑しいだろ。」




もっと違う所に羞恥を覚えるべきだぞお前。


顔を赤くして目を泳がせている人間に溜め息が漏れる。




難しい顔を浮かべて髪をくしゃりと乱した男が、私の頬に手を伸ばした。



温かい掌に頬が包み込まれる。





「真白を好きだから抱きてぇ。そう思ったら駄目なのかよ。」


「……。」





少しずつ距離を縮める綺麗な顔に、私は息を呑む。



鼓動が高鳴る中、互いの唇が重なり合う直前……。




「駄目に決まってる。」




二人の間を割って入ってくるなり、私の身体を抱き寄せて剣から遠ざけた人物が不満そうに顔を歪めた。




「俺も真白好きだから駄目。」




首を横に振って私をぎゅっと抱き締めた彼は、眠たそうに欠伸を零した。



そんな姿さえ最高な事に美しい。


危うく口の端から零れそうになった涎を慌てて啜る。




「飛鳥は今日も美形だね。」


「ん、真白は今日もすごく可愛い。」


「飛鳥あああああ!!!!」


「ふふっ、真白好き。」





ふにゃりと柔らかく口許を緩めた飛鳥が素敵過ぎて、目頭を押さえた。






「てめぇは毎度毎度邪魔しやがって、湧いて出てくるのもいい加減にしろよ。」


「湧いてるのは剣の頭でしょ。」


「ぶふっ、それな。」


「ふんだ、お前等とはもう絶好だ。」





テメェは子供か。



不貞腐れた顔でソファに座った男は、体育座りをしながらチラッチラこっちに視線を寄越してくる。



何あれ、新手のかまちょ?





「ところで飛鳥どうやって入って来たの?」


「ベランダから。」


「トリッキー過ぎだろ。」






鬼帝 剣きてい つるぎと付き合うようになってから早一週間。




驚くくらい日常は微塵も甘くない。

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