第8話

紫暮くんが帰って、クッキーの入った袋を手にぼんやりとした思考で家に戻る。


お母さんが、何だった?なんて聞いてくるので、紫暮くんから水族館のお土産、と返して。独り占めするのもなあなんて思って、クッキーの箱はリビングに置いた。


お母さんからお昼が出来るまでもう少しだからと言われて、じゃあ少し部屋にいるね、と自室に向かった。


自室に入ってドアを締めて、布団にダイブした。



「わらえてたかな」



おめでとうって言った時、笑えてたかな。


漠然と、私の負けだと思った。失恋を理解して抱いたのは、嫉妬というより悔しさだった。


ずっと好きだと思ってるくせに、結局私はその言葉を伝えなかったから。


だって、結本先輩はちゃんと自分でその言葉を送ったんだから。その一歩は、私に踏み出せなかった一歩で。



「悔しいなあ」



私の方が好きなのに。どうして。

そんな気持ちはあれど、その言葉の行き場が無い。だって、言う言葉ではないから。


ああ、私。

この恋を終わらせられるかな。

だって、彼女が出来たとか言われても。


私はまだ、君が好きだよ。

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