第93話

紅茶を淹れて、舞い戻って来た私。



ドアに手を掛ける寸前だった。




「うん、今さっき帰って来たよ。」



中から夢月の声が聞こえた。


恐らく誰かと電話しているのだろう。



すぐさまドアに耳を押し当てた。



盗み聞きなんていけない事だとは分かりつつも、止めるわけにはいかない。


万が一電話の相手が害虫だったらすぐさまぶっ潰さないと。これ使命。




「疲れてないよ、鈴の方こそ動き回ってくれてありがとう。」



どうやら電話の相手は鈴らしい。



良かった。一安心。


これで女だったら発狂してた。その後は勿論駆除してた。




「今?今は真白の家だよ。……うん、そうだね正直毎日しつこくて迷惑だよ。鬱陶しい。」



え……。



「でもそれはできないよ、確かに腹は立ってるけど立場が立場だし…今はね。」




冷たさを帯びた声に、身体が震える。


耳を疑いたくなった。



胸が締め付けられて、苦しくて痛くて泣きたくなる。



そっか…。


私、迷惑だったんだ。鬱陶しかったんだ。


そりゃあそうだ。一つ下の女が高校まで追いかけて入学してきたんだから腹が立つに決まっている。



やだな。


私馬鹿だ。どうしようもない馬鹿野郎だ。




「………っっ。」



涙が溢れる。


せめて流すまいと必死に堪えるけれど、もう胸が痛くて痛くて仕方がない。



ずっと気になっていた夢月の本心。


だけど、知らない方が良かった。こんな事なら知りたくなかった。



どんな女の子よりも一番夢月の近くにいれていると思っていた自分が情けない。滑稽だ。




「嫌われてるんじゃん……。」




夢月は優しいから言えないだけだ。


私に気を遣ってくれているだけだ。





その事実が鋭い刺となって胸に突き刺さる。


ぽっかりと大きな穴ができた気がした。

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