第92話

それにしても、こうして私の部屋に夢月がいるなんて随分久しぶりな気がする。




「良い子に留守番してた?」


「もう、私子供じゃないんだよ?留守番くらいできるよ。」




嘘だけど。


インターホン鳴った瞬間、すぐさま居留守の文字が頭を過ったくらいには留守番業務放棄してたけど。



でもちゃんと出て良かったよ。あの時の私良い仕事したよ。




「知ってるよ、真白が子供だったらこんなにハラハラしないよ。」


「ハラハラ?」


「真白は可愛いから変な人間に迫られないか毎日不安だって事。」


「私そんなに可愛くないよ。」




きゃー褒められたー!!!


もっと可愛いって言って。人生頑張れるから。




「可愛いよ。真白はすっごく可愛い、鬼帝君に言い寄られてた時も心配したよ。」




あれは言い寄られたというより弱味握られて脅されてたの方が正しい。


思い浮かぶ憎き整った顔に舌打ちが零れそうだった。




「えっと…でも今は鬼帝君も姿を現さなくなったし、問題も起こさなくなったし良かったよね。」


「そうだね、どれくらい持つかなって感じだけど。」


「心配しなくてももう私には関わってこないよきっと。」


「そうだといいな。」


「ど、どうして…夢月はそんなに心配してくれるの?」




二人きりだからだろうか。


夢月がやたら期待を持たせるような発言をするからだろうか。



気づけば私は、今まで胸の内に秘めていた疑問をぶつけていた。





「そんなの、決まってるでしょう。」




夢月が距離を詰めながら、私の頬を撫でる。


すぐそこまで迫った美しい顔に、心臓が酷く音を立てていた。




待って、毛穴なしかよ。


肌綺麗すぎるじゃん。


負けた。普通に負けた。近々LUSHに駆け込もう。




「真白がたまらなく可愛いからだよ。だから心配になる。」




落とされた言葉はやはり曖昧で。


求めていた物とは違うそれに落胆する。



好きだからだよって…やっぱり言ってくれないよね。




「わ、私飲み物取って来るね。」



あからさまに残念な顔をしてしまいそうで、逃げるように自分の部屋を出た。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る