第89話

幼い頃から武道を叩き込まれ、むさ苦しい男の中で稽古をさせられていたせいだろうか。



どちらかと言えば部屋の中でおままごとするより、外に出て虫捕りしたい派だった。


お花摘みとかお絵描きとかにも全然興味がなくて、テレビゲームや格闘ごっこの方が格段に楽しかった。




そんな自分の本性に自分で絶望したのは、やっぱり夢月が余りにも理想の王子様だったからだと思う。





「俺は、好きな人を守りたいな。」




ませガキだった私は無駄に恋愛感情を抱くのも早く、幼稚園の時点では夢月の奥さんになる決意が固まっていた。



そんなある日、一緒に映画を観ていた夢月が落とした言葉が今でも忘れられない。




「強い女の人って格好良いけど、少し怖い。」


「え…。」


「か弱い女の子を守りたい。」


「……。」




ガーン。


その時の私に効果音を付けるとしたらまさにこれだと思う。


全身から冷や汗が噴き出るのが分かった。



なよなよしている男を女性のヒーローが助けて、支えて幸せになるストーリーの映画。


詳しい内容はもう頭に入ってきてはくれなかった。




「真白は俺が守るね。」




私の手を取って浮かべた微笑は美しい。


その時に私は思った。



夢月が好きなか弱い女の子になろう。


得意な武術も隠し、好きな遊びも封印し、女の子らしくてお花が咲いたような、甘いケーキに囲まれたようなそんな人間になろう。




「うん、ありがとう夢月。」




王子様の隣に立てるお姫様。


誰もが羨み、誰もが憧れる存在。



夢月のお姫様になってみせる。



その日から、私は自分の性格を捏造し始めた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る