第77話

すぐさま目の前の馬鹿に軽蔑的な視線を送る。


意味が分からない。腹痛いなら自分の学校帰ってよ。





「保健室に行きたいなら俺が案内するよ。」


「あー無理。俺人見知りだからこいつの方が良い。」



どの辺が人見知りなわけよ。


辞書で引いて調べてみろ。お前と全く逆人格の説明が記載されているだろうよ。




「ちょっと勝手に何言って…「お前、あの男に野蛮な本性隠してんだろ?良いのか?バラされても。」」




反論しようとした私の耳元で囁かれた悪魔の言葉。


その効果は絶大で、私はすぐに押し黙った。


額には冷や汗が滲む。




必死に隠し続けてきた本性が夢月に露見してしまえば私はきっと嫌われてしまう。


お姫様どころか幼馴染の立場さえ一気に危うくなるのは目に見えていた。




くっっっそ、この男心底性格悪いな。人に言えた事じゃないけど。




「バラされたくなかったら俺の言う事聞いている方が利口なんじゃねーの?」




不服だが、完全に主導権はこの男が握っていた。


夢月に自分の本性が露見する。それは私がこれまでの人生で最も恐れていた事だ。


それだけは何としてでも避けなければいけない。


だって私は夢月のお姫様になりたいから。


夢月に似合う女になりたいから。



いつの間にか拳になっていた手に力が籠る。




「真白?鬼帝君の事は気にしなくても…「だ、大丈夫ですか?大変、相当具合悪いみたい。夢月、私鬼帝君を保健室に連れて行くね。」」





結局、私が選択したのは大人しくこの馬鹿の言う事を聞く事だった。


…それしか選択肢がなかった。





「心配しないで、保健室に送り届けるだけだから。夢月もそろそろ授業が始まるでしょう?私の事は気にしないで行って。」




嫌われたくない。


絶対に、夢月にだけは幻滅されたくない。



納得がいっていない表情を浮かべる夢月に畳みかけるように言葉を続けた。




「開花の生徒だからきっと保健室が分からないだけだと思うの、私もすぐに教室に戻るから平気だよ。だから夢月も安心して良いからね。」


「真白。」


「そ、それじゃあ鬼帝君行きましょう。」


「真白。」




私の声掛けに頷く肉欲獣の頭に拳を落としてやりたい。


無理矢理笑顔を貼り付けながら、私の名前を呼び続ける夢月を背中に私は教室を後にした。

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