第76話

いつもの優しさの詰まった声色とは違うそれに妙な緊張が走る。



視線だけをゆっくり移動させれば、そこには険しい表情をした夢月が立っていた。




「夢月どうして…。」


「別れる前に言い忘れていた事があってね、慌てて引き返したんだ。でも驚いたよ、まさか開花高校の生徒であるはずの鬼帝君がいるなんてね。」



なんて最悪なタイミングなのだろうか。


鋭い夢月の視線を受けてる当の本人は暢気に欠伸を零している。




「鬼帝君、何しに来たの?」


「てめーに関係ねーだろ。」


「大いにあるよ、俺は生徒会長だからね、問題を起こされたら困るんだ。」


「別に問題なんて起こさねーよ。ガキじゃあるまいし。」



嘘吐け。


よく今まであれだけの悪行を働いてそれが言えたもんだ。


問題しか起こしてないでしょ。現に今だって大問題なんだけど。




「昨日も言ったはずだけど、真白に関わらないで欲しい…「あー腹がいてぇ!!!!」」




夢月の言葉が見事に遮られたかと思えば、肉欲獣が腹を抑えながら席を立った。



え、絶対嘘じゃん。さっきまでピンピンしてた癖に何言ってんのこいつ。



突拍子もない事を言い出した男の意図が掴めず、私の眉間には皺が寄る。



しかも心なしかよろめきながらこちらに近づいている気がする。


ただの気のせいだろうか。




「いてぇマジいてぇ。鼻からスイカ出そうだ。」



それ出産の時の例えだろうが。お前は妊婦か。


気味が悪すぎるんだけど。




「………っっ。」



一瞬だけ肉欲獣と目が合った。


刹那、奴は笑みを浮かべて見せた。


初めて出会ったあの時のように、それは不敵で妖艶で綺麗な笑みだった。




そして目前へと迫った肉欲獣が私に凭れかかるようにして口を開いた。





「頼む、保健室に案内してくれ。」





…。


……。


………。







は?



絶対嫌なんだけど。

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