第75話

持っていた鞄が衝撃で脱力した手をすり抜け地面に落下した。



何でいる。


何でこの男がいる。


しかも何で私の席に座っている。




騒がしい教室。そこにいる全ての人間が私へと視線を向けている。





「ど、どうしてここにいるんですか?貴方の高校はここじゃないですよ?」



ていうか今すぐ速やかに帰れ。


頬が痙攣を起こしそうになる中、必死に作り笑顔を貼り付ける。




「俺がわざわざ会いに来てやってんだぞ、喜べ。」




強要するなよ。しかも微塵も嬉しくない。


どうせ来るなら飛鳥連れて来なさいよ。



どういう神経をしているのか、他校の教室に堂々と居座っている肉欲獣に頭痛を覚える。



数分前まで夢月と一緒に登校して幸せだったというのに、途端に地獄だ。



神様、どうして私ばかりこんな馬鹿と関わらないといけないんですか。


私何か悪い事でもしましたか?日頃の行いが悪いですか?


思い当たる節が多すぎてどれを反省していいのか分からないです。




「二日連続で鬼帝さん見られるなんて嬉しいー。」


「遊びで良いから抱いて欲しいよね。」


「てか如月さんどういう関係?」




周囲の女達が頬を赤らめて、熱い視線を肉欲獣に送っている。


真剣にこんな人間の何処がいいのだろうか。


目が腐ってるとしか思えない。



そして完全に疑惑を持たれ始めている私とこいつの関係性に不安と絶望しか感じない。





「あのー私座れないんですけど。」


「聞けよマカロン、昨日あの後てめーが帰ったせいであいつ等に散々責められたんだぜ。」




まずあんたが私の話を聞けよ。




「それによ、俺、お前に興味がある。」


「迷惑です、お引き取り下さい。」


「というわけでお前に会いに来た。」



だから話を聞け!!!!!


私は一切あんたなんかに興味なんてないんだよ。


まるで噛み合わない相手に青筋が浮きそうだ。




「どうしてここに鬼帝君がいるの?」




そんな私のすぐ後ろから、冷たさを帯びたよく知る声が落ちてきた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る