第72話
視界を奪われたまま、どれくらいが経過したのだろうか。
私も夢月もお互い無言だった。
一定のリズムで鳴っている夢月の心臓の音が心地良く感じる。
「む、夢月…私重くない?」
「全然。真白は細すぎるくらいだよ。」
彼の言葉一つだけで、私の胸が容易に躍る。
優しく身体を降ろされたかと思えば、明るくなった視界。
一番最初に映ったのは、夢月の綺麗な顔だった。
「何もされてない?怖かったよね、遅くなってごめんね。」
至近距離にある好きな人の顔。
私の頬を撫でて申し訳なさそうにする彼に、慌てて首を振る。
「気にしないで。夢月が来てくれただけで嬉しかった。」
「先生から真白が鬼帝君に連れ去られたって聞かされて、心臓が止まるかと思った。」
「夢月…。」
「授業なんて受けてる場合じゃなかった。不安で不安でどうしようもなかった。」
自分の前髪を搔き乱した夢月は、端正な顔を歪めて自嘲的な笑みを落とした。
「真白の事になると冷静でいられなくなってしまうんだ。真白が鬼帝君といると思うだけで焦燥感と漠然とした不安に駆られるんだ。」
「……。」
「俺や鈴達以外の男と関わって欲しくない。そう思う俺は随分と自己中心的だよね。」
そんな事ないよ。寧ろ大歓迎ですよ。
だって、これはかなり良い傾向じゃない?
独占欲とまでは行かなくても、夢月が吐いた言葉は嫉妬と取れるような内容だ。
少なくとも以前よりは進歩していると思われる関係に、期待を抱かずにはいられない。
「自分勝手だと分かっていても、どうしても自分の制御ができないんだ。こんなの、真白にとっては迷惑だよね。」
「全然だよ。夢月が迎えに来てくれてすっごく安心したもん。迷惑なんて思わないよ。」
「真白は本当に優しいね。」
「夢月には負けちゃうよ。」
私の頭を撫でてくれるその温かい手が好き。
優しい笑顔が好き。
お願い素敵な王子様、早く私を好きになって。
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