第71話

ちらり。


こちらへと目を向けた飛鳥と視線がぶつかる。



まだ眠たいのか瞼を重そうに瞬かせながら、首を傾げている。



クッソ…やっぱり美形だ。かなり好きな顔だ。




「行くの?」


「へ?」


「真白…俺を置いて行くの?」




た、たまんない!!!!



そんな美しい顔で甘い言葉吐くなんて反則かよ。


余りの飛鳥の眩しさに頭を抱えてしまう。




「当然だよ。真白がいるべき場所はここじゃないからね。」


「狡い。」


「真白だけは渡さないよ。」




私を引き寄せて、腕の中に包み込んだ夢月の言葉に体温が上昇する。



まるで、私が夢月の物だと宣言されているようで胸が高鳴ってしまう。



きっと夢月はそんなつもりで言っている訳じゃないって分かっている。



分かっているけれど、嬉しくないはずがなかった。





「けっ、嘘くせぇ笑顔だな。王子様気取りかよ。俺の方がイケメンだわ。」



何処がだよ。


今すぐその言葉土下座して詫びろカス。



背後から投げられた暴言。勿論犯人は肉欲獣しかいない。


鼻をほじりながら馬鹿にしたような目で夢月を見ている肉欲獣を睨みつける。




気取ってるんじゃない、夢月は紛れもない王子様だ。


ずっとずっと、昔から、変わることなく優しくて素敵な私の王子様なんだ。




「んだよマカロン、あんま俺ばっか見んな。抱いて欲しいのか?」




とんでもなく自意識過剰だなてめぇはよ!!!!


にやりと口角だけを吊り上げて私にウィンクを飛ばす阿保に腸が煮えくり返る。



どういう思考回路を持ったらああなるの。脳内花畑広がり過ぎじゃない?



無意識の内に眉間に皺が寄っていく。



そんな中、突然目の前が真っ暗になった。




「真白に鬼帝君をこれ以上見て欲しくないや。」




降ってきたのは愛しい人の声。


もしかしなくても、夢月の手が私の目を覆ってる?




「きゃっ…。」




それから間もなくして、身体が宙に浮いた。




「捕まってて。一緒に帰ろうね真白。」




耳元に響く甘い囁きに酔ってしまいそうになる。


夢月に抱っこされている現実に心臓が音を立てる中、私はゆっくり首肯した。

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