第70話

夢月という王子様を前にしている癖に、誰一人興味がなさそうな表情をしている。



とんだ無礼者だなこいつ等。




「やっぱり総攻めであって欲しい…。」



険しい顔で言う台詞じゃないよねそれ。


道梨の夢月に向けられる視線がいかがわしい物でしかない。




「もう二度と、真白を攫うような事はしないで欲しい。」


「何でてめーに命令されなきゃいけねーんだよ。」




おいこらふざけんな。


中指立てて不敵に笑う肉欲獣を脳内で撲殺する。


あの指へし折ってやりたい。




「……話が通じる相手じゃないのが残念だよ。」


「夢月、気にしないで。きっと猿に近いのよ。」


「そうだね、もう行こうか真白。」


「俺を分かりやすく貶してんじゃねぇクソ共。」





貶してないよ、事実を言っただけだよ。


あんた猿じゃないの?あ、猿に失礼か。



眉間に皺を寄せて睨み付ける肉欲獣からさっさと目を逸らして、夢月の手を握り締めた。




「早く、心配してくれている皆に会いたい。」


「そうだね、きっと鈴達も安心するよ。」




私の手を当然のように引いて夢月が歩き出そうとした瞬間、横から伸びてきた手がそれを制した。





「駄目。」


「……。」


「行かせない。真白は駄目。」




眠そうな目を擦って、首を横に振りながら訴えたのは飛鳥だった。





「その手、放してくれる?」



夢月の真剣な表情は、表現できる言葉が見つからない程に魅力的だ。




「そっちこそ、放して。」


「真白は俺と帰るんだ。」


「違う、俺と一緒に眠る。」


「冗談はよしてよ。」




美形二人が私を取り合っているように見えなくもないこの図に、私は胸中で大興奮していた。
















「この女ニヤけてるぞ。薬でもヤってんのか?」




誰か、ここにいるデリカシーの欠片もない肉欲獣を殺してください、早急に。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る