第69話

荒くなっている息。


私を必死に探してくれていたのだろうか。



額や首筋に浮いている汗もたまらなくセクシー。




「夢月!!!!」


「真白!!!!」





夢月の登場になりふり構っていられない私は、すぐさま立ち上がって彼の腕の中に飛び込んだ。



彼の香りに全身が包まれる。



最高。そのまま抱かれてしまいたい。





「大丈夫?何もされてない?心配したよ。」


「うん、大丈夫。でも…私すっごく怖かった。」


「もう平気だよ。俺が守るからね。」


「嬉しい…。」




私を心配してくれている事がたまらなく嬉しい。


きっと今、夢月の頭の中を独占できているのは私だ。


その事実が幸せで仕方がない。





「おい、あいつ誰だ。」


「分かんない。僕も余りの変わり身の早さに頭が追い付けてない。」




とりあえず後ろの二人黙れ。



夢月の腕の隙間から視線をやれば、私に化け物を見るような目を向けている肉欲獣と道梨。




「気色悪ぃぞこいつ。何女ぶってんだ。」



元から女なんだけど。




「似合わねぇ言葉遣いしやがって、どういうつもりだ。悪寒が走るぜ。気色の悪さで俺を殺す気かよ。」



もうお前は勝手に死んでろよ。



言いたい放題の肉欲獣に憤りを覚えるが、そんな事よりも今優先すべきは夢月だ。




「こんな所に長居しちゃ駄目だ。話は後でゆっくり聞かせてね真白。すぐに帰ろう、鈴達も探してる。」


「うん。迎えに来てくれてありがとう夢月。」


「当然でしょ、俺の方こそ可愛い真白を独りにさせてごめんね。」





はぁ…本当に格好良い。好き。大好き。


何処までも優しい夢月が、私の頭を撫でて目を細める。




「おいで、真白。」




差し出された手を迷いなくとる。



鈴や蘭や聖架も私の事を探してくれているだなんて、まるで本物のお姫様になった気分だ。





「やべぇ、幻覚が見えちまってる。」




後ろで騒いでいる肉欲獣を最後に一発くらいぶん殴ってやりたいけれど、夢月に免じて許してあげなくもない。




「鬼帝君。」




私を自分の方へと引き寄せた夢月が、奴の名前を呼んだ。




「んだよ。」


「何をしようが君の勝手なのかもしれないけれど、大切なこの子だけには勝手は許さないから。」


「うるせぇ。」




おい貴様!!!夢月のお言葉を適当に聞き流すな!!!!

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