第61話

「女に一切興味がない飛鳥は僕の大事な妄想素材だったのにどうしてくれるの。」


「妄想?」


「そう。あんたと飛鳥、いつから付き合ってるわけ?」


「ん!?!?!?」




話が飛び過ぎた質問に、私の目が大きく見開く。


とんでもない勘違いされてるじゃん。



私が付き合うのは紫陽花夢月だけって決まってるのに。






「あの、付き合ってないんだけど。」


「は?」


「抱き心地をお気に召されたみたいで、私は飛鳥の抱き枕的な感じなの。」


「なんだ、じゃああんたは身体だけの都合の良い女って事か。良かった。」


「いや良くねぇよ、もう少し言葉選びなさいよ。」




身体だけの都合の良い女って誤解しか生まれないでしょ。


そんなの夢月の耳にでも届いたら私の人生は即刻幕を下ろすことになるんだから。




「あんたに質問がある。」


「何?」




ソファに飛び乗った可愛い変態が、キラキラと目を輝かせて私を見る。



くっそう、可愛いな。何だこれ同じ人間ですか。




「やっぱり紫陽花が総攻め?」


「……。」


「それとも、宮園蘭が総受け?いや…でも宮園兄弟の禁断愛も捨てがたいんだよね。」


「ごめん、日本語喋って。」





顎に手を添えて、真剣に悩ましい表情を浮かべる相手の言っている事が一割も理解できなかった。


初耳すぎる単語を並べられたせいで全然耳が追い付かなかった。



総攻め?総受け?


禁断愛とかとんでもない単語まで聞こえた気が…。





「僕日本語しか喋ってないんだけど。興奮してきたら喉渇いた、あんたも何か飲む?」


「ぐえっ…。」


「あ、ごめんゴミかと思った。」




こいつ鬼だな。


可愛い顔してとんでもない鬼畜だ。




ソファから降り立って、床に転がる肉欲獣を丁寧に踏み潰した男は冷蔵庫から取り出したいちごみるくを私に投げつけた。




「剣、いつまでそこでくたばってるの?かなり邪魔。捨てるよ?」




誰のせいであいつ瀕死になってると思うの。



いちごみるくを吸いながら無邪気に顔を綻ばせる相手に、少しだけ肉欲獣に同情した。本当に少しだけ。ミジンコ程度。

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