第57話

忘れもしない品格と色気のある美形。





「飛鳥…。」


「俺の名前、ちゃんと覚えてる。嬉しい。」





無意識に口を突いて出た彼の名前に、飛鳥が嬉々として目を細める。



はぁ…今日もうっとりするくらい麗しい。





「真白は今日も可愛い。」


「…っっ。」




吐血しそうな程の悩殺微笑。


さらりと甘い言葉を吐いた飛鳥に、鼓動が不可抗力で早まっていく。




あー胸が痛いよ。


とんでもない美形だよ。





「何でお前胸押さえてんだ?乳首でも痒いんか?よくあるよな。」



ここにいる下品な馬鹿とはえらい違いだ。




「んなわけないでしょ。萌えすぎてしんどいだけよ。」




乳首痒いってどんな状態なの。しかもよくあるのかよ。



俵担ぎされている現実をすっかり忘れ、美形に見入っている私の前で欠伸をした飛鳥が首を傾げた。




「何で剣がいるの?」




きょとんと、不思議そうな表情で疑問を投げかけてきた相手に私も首を傾げる。




「剣?誰それ。」


「俺の名前だよこのクソアマ。丁寧に名前教えてやったのに覚えてねーのかよ。」


「ごめんなさい、余りにも興味がなくて。」


「有りえねぇ…最強イケメンの俺に興味が無い?お前病院行ってこい、絶対病気だ。」




何のだよ。


私からすれば溢れんばかりのその自信の方が有り得ないんだけど。





「そんなことより。」




私と肉欲獣の言い合いを割いた声。




「答えて。何で剣がいるの、真白を放して。」




顔を顰めた飛鳥の問いに、奴は呑気に鼻くそをほじっている。




「お前こそ、いつも寝てばっかの癖に何でここにいやがる飛鳥。」


「俺は真白を迎えに来た。」


「生憎、俺もこの女を迎えに来た。まだ約束果たしてねぇからな。」




は?約束?



肉欲獣の返事に頭の中が疑問符で埋め尽くされる。




「とりあえずさっさと帰るぞ、このままここにいたら騒ぎになる。」




今更だよ。


もうとっくに騒ぎになってるから。




「うん、おっけい。行こう真白。」




え?



快諾して歩き出す飛鳥に続いて、肉欲獣も私を担いだまま歩き出した。



え、助けてくれるんじゃないの?


え?おっけいじゃないよ?全然おっけいな要素ないよ?




「如月!!!!必ず助けに行くからな!!!!」




今助けてくれよ。




情けない教師の声を背中に、私は拉致されたのだった。

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