第53話

今更なんだけどこの子よく見たら開花高校の制服着てるじゃん。



「制服よりも先に、どうしてここにいたの?」



そうだよ、肝心な事を忘れていた。


この人さっきロッカーの中に潜んでいたんだった。




「………。」



私の問いかけに、あからさまに顔を曇らせて視線を泳がせ始めた相手。



まさかこいつ……。




「嘘でしょ…夢月が男にエッチなお仕置きをするのが趣味だったなんて……。」


「そんな訳ないでしょ!!!どんな思考してるのこの痴女!!!」


「はぁ?私の何処が痴女なのよ。ただ純粋に夢月にエッチな事されたいだけよ!!!」


「そういう所が痴女なんだよ馬鹿じゃないの。」




誰が何と言おうと私はお姫様だ。


痴女なんて縁遠い言葉でしかない。




「じゃあ何でここにいたのよ?」


「それは……。」




口篭もる相手が、恥ずかしそうにモジモジを身体をくねらせる。




「ねぇ、トイレは我慢しなくていいんだよ、行ってきなよ。」


「違うから!!!どんな気遣いだよそれ。」


「いやだって、落ち着きないからてっきり…。」


「何なのあんた、イメージしてた性格と違いすぎるんだけど。」




怪訝な顔を浮かべた相手は、若干引いているようにも見える。


いや、ロッカーに潜んでいたお前の方がドン引きだよ。




「聖架って意外と抜けてるよな。」


「お前に言われたくない。」


「だって全然違う資料だぜこれ。」


「悪かったな。」


「あはは、いや元はと言えば忘れた俺が悪いし…。」





私と男が対峙していると、廊下の方から慣れ親しんだ声が聞こえてきた。


聖架と蘭の声だ。




「やばい。」


「え?あっ…ちょっと!!!」




徐々に近づく声に血相を変えた男は、生徒会室の窓から軽い身のこなしで飛び降りた。



ここは二階だというのに、簡単に着地を成功させた男はそのままこちらを振り返る事なく走り去っていく。





「あれ、真白外なんか眺めてどうしたの?」





男の華奢な背中を眺めていた私に掛けられたのは、不思議そうな蘭の声。



すぐに振り返れば、蘭と聖架が揃ってこちらに視線を向けていた。




「ううん、何でもないよ。」




結局、何者なのか分からなかったあの男。


ただ一つだけ分かった事は…。



感じていた視線の犯人はあいつに違いないという事だけだった。

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