第48話

唐突な問いに私の頭を過るのは、木から降ってきた美形の顔。


しかも抱き締められた。めちゃくちゃ抱き締められたし、余りの美しさに流されてちゃっかり抱き締める事を許可した私。





「違う男の匂いがする。」


「え、えっと…あの…ちょっとした事故で。」


「俺、すごく心が狭くて嫌な奴かもしれない。」


「……。」


「この匂い、嫌だ。真白の香りが好き。」




私の首筋に顔を埋めた彼の言葉に、私は昇天しそうになるくらい興奮した。




真白の香りが好き。


真白の香りが好き。


真白の香りが好き(しつこい)



エコーがかかって脳で繰り返される甘い言葉。




「わ、私も!夢月の香りが好き。」


「本当?じゃあ上書きさせて。」


「え?」




距離ができていた身体はまた腕の中に閉じ込められ、彼の香りで全身が包まれる。




「真白は可愛いから心配だよ。あんまり油断し過ぎたら駄目だよ、男は皆狼だってよく言うでしょう?」


「…気を付けます。」


「うん、気を付けてください。そうじゃないと俺の気が持ちそうにないから。」




いつになったら夢月は狼になってくれますか?私はいつでも食べられる準備はできています。


今すぐにでも襲って欲しい。切実に。




「また明日。近いうち夕食頂くね。真白もたまには俺の家においで。真白ならいつでも歓迎するから。」




額に落とされるキスは、甘くて蕩けてしまいそうだ。



本当は唇にして欲しいけれど、この際わがままは言ってられない。




「じゃあね、真白。」




隣の家へと去っていく背中を見つめながら、熱の籠った溜息が落ちる。



最近、少しだけ夢月との関係が進展している気がする。


私の思い込みなのかもしれないけれど、それでも胸が弾んでしまう。




「明日も楽しみ。」




明日の夢月と一緒の登下校がもう既に楽しみだ。



その日の夜は、甘酸っぱい想いと期待に胸を膨らませながら眠りについた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る