第46話

浮かれていたのも束の間だった。



「お母さんが、たまには夢月もご飯食べにおいでって言ってたよ。」


「…うん。」


「お父さんは少し鬱陶しいかもしれないけど気にしないで?」


「鬱陶しくなんかないよ。」





隣を歩く夢月が何処となく素っ気ない。



何を言っても返事が一文。しかも真顔。いや、真顔でも美形だよ勿論。



でも気まずくて仕方がない。




えっと…私夢月に何かした?ボロが出た?何処かで本性が露呈した?



駄目だ、夢月に対して何重にも猫の皮被りすぎてて、思い当たる節しかない。



胸中で頭を抱えている間にも、我が家と紫陽花家が見えてきた。





「あ、あの…夢月?」


「何?」




我が家の門の前。


名前を呼んだ私への彼の反応はやはり素っ気ない。




耐えられない。こんなのが続いたら辛い、無理、死ぬ。


夢月の為だけに全てを捧げてきた人生。誰に嫌われようと夢月にだけは見捨てられたくない。



本当に、夢月の事となると私は微塵も自信がなくなってしまう。




「私、何かしちゃった?」


「え?」



少しの事で大きな不安に駆られてしまう。


その不安に、押しつぶされそうになる。




「ほら…夢月、学校出た時から笑ってくれないし…少し素っ気ないし…私が何か夢月の気に食わない事しちゃったのかなって。」


「真白。」


「それならごめんなさい。」


「違うよ真白。」


「夢月に嫌われたくないのだから…「違う!真白違うから。」」




思わず込み上げてきた涙が落ちる寸前、私は夢月の腕の中に引き寄せられていた。




「謝るのは俺の方。真白は何も悪くないよ。」


「でも……。」


「腹が立ったんだ。教室を出る時、真白への悪口が聞こえて…言い返したかったけれど、きっと俺が言ったら逆効果で余計に真白が悪く言われてしまう。そう考えたら自分の無力さに腹が立って。」




私の頭を撫でる夢月の顔は、悔しそうに歪められた。


そんな表情にもうっとりしてしまう。

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