第45話

放課後、急いで帰る支度をしていると、教室内が突然ざわついた。



欠伸を落としながら、ちらりと騒がしい方へ視線を向けた私の手からはバサバサと音を立てて教科書が落下する。



それもそのはず。




「真白、帰ろう。」




教室中の注目を集めていたのが、他の誰でもない夢月だったからだ。





「夢月…。」




黄色い声を上げ、騒ぎ立てる外野の煩い女達に軽く笑顔を振り撒きながら歩み寄る彼。


そんなに笑顔見せないで良いのに。私だけに見せてくれれば良いのに。




そんな事を思う私は心が醜いのだろうか。


…醜いよね、知ってる。



目前まで来ると床に散らばった教科書を拾い上げた彼が、にこりと微笑む。



女達に向けたのより私の方に向けたのが3割増しで口角上がってる気がする。


そうだ、絶対そうだ。





「待てなくて、迎えに来ちゃった。」



ブルーミング。


夢月の周りに花が見える。




差し出された教科書を受け取って鞄に仕舞った私の手を取って歩き出す。



少し強引なところもキュン。




それを見た女達がぎゃーぎゃーと悲鳴を上げる中、私は優越感から出る笑みを抑えるのに必死だ。




「何なの如月さんだけ狡い。」


「私も紫陽花先輩に迎えに来て貰いたい。」


「顔が可愛いからって特別扱いとかありえない。」




口々に零される私への愚痴。


皆羨ましいのね、羨ましいに決まってる。



残念だけど、夢月がわざわざ迎えに来たのは私なの。


悪口なんて痛くもかゆくもない。


だって私の隣には夢月がいるから。



それだけで十分だし、どんな事も耐えられる。




「行こう、真白。」


「うん。」




王子様に手を引かれながら帰る道のりは、いつだって私の心を弾ませてくれる。



夢月に握られた手は、今日も熱を持っていた。

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