第19話

全力疾走で学校内を巡る。



空き教室、保健室、体育館倉庫。



そして現在体育館裏。






「くっそ、何処にもいないじゃんかよ。」



不良がいる場所なんて、空き教室か保健室か体育館倉庫が定番なんじゃないの?



聞いてた話と違うんだけど。不良どころか人っ子一人いないんですけど。




「あーもう、折角夢月と帰れると思ったのに。何してくれてんだよあのクズ。クソが、クソが、クソが。」




誰もいないのに可愛い子を演じる必要なんてない。


本音を吐き出しながら、何処にもぶつけようのない怒りを地面を蹴って発散させる。



いつも腹の底に溜めているせいか、思っている事をそのまま吐き出すだけでも少しスッとする。




「鬼帝の野郎…絶対ぶっ殺してやろうと思ったのに…。」




足元の砂地に指で「鬼帝死ね」と書き記す。


段々と冷静さを取り戻した今、もう大人しく生徒会室に引き返して王子様の帰りを待った方が良いかもしれないと思い直す。


健気な女感もあるしその方が好印象じゃない?絶対そうだ。




「そうと決まれば早く戻って…「随分口の悪ぃ女だな。」」



不意に、背後から掛けられた聞き慣れない声。


反射的に立ち止まった私は、そのまま視線を声のした方へと滑らせた。





丁度隣の馬鹿校、開花高校とここを隔てる為にお情け程度に設けられた塀。


その上に座っているのは、不敵に口角を吊り上げた一人の男。





え…誰。いつの間にいたのこいつ。


全然気づかなかったんだけど、存在感うっすいな。

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