第5話

ある日。



それは、私が小学校高学年のいつかの夏。


じりじりと蝉が鳴く噎せ返るような茹だる暑さの中、私は先生に頼まれた本を図書室に返しに行っていた。


休憩時間といえど休んでいられない。先生のお手伝いが終わったら塾の勉強しなきゃな、なんて子供らしからぬ事を考えながら歩いていた。


…そうしたら聞こえた、複数の女子の話し声。




「ねぇ、みおりちゃんってさ、

いつもヘラヘラ笑ってて気持ち悪い」



聞こえてきたのは、片割れの名前。

思わず立ち止まった。



「ちょっと可愛いからって調子乗ってるよね」


「頭悪い癖に何様なの?」


「…ねぇ、なんか言ったら?」



「…えっと、私が笑ってるのとか、そんなに嫌だった…?ご、ごめんね…」



美織がそう言って、無理矢理作った笑顔と震える声で、謝る。


すると、女子達はそんな美織の態度が癪に障ったのかその頬を叩いた。



ぱしん。


嫌な音が響いた。

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