第88話
強烈な閃光。
後に大きなドンっという音が響く。
目の前に広がる大きな花火に、息を飲んだ。
地上からは見えない、見る事なんて出来ない。
何て贅沢な見方だろう。
「近づきすぎると危ないので、ここから見ましょう」
椿の言葉に返事をするのも忘れて、目の前で咲き乱れる花火に目を奪われる。
色とりどりの花達が、まるで自分達の為だけに咲いているようで。
人生で味わう事はないであろう事を、自分は今体験している。
飛行機やヘリコプターに乗ってではなく、空に浮かびながら、飛びながら。
アニメや漫画とかの世界での出来事が、リアルになった。
きっと誰に話したって、信じてはくれないだろう。
次々に咲いては消える花火。
風に乗って香る火薬の香り。
ダイレクトに、全身で感じている。
「蓮、大丈夫ですか?」
「あ、ああ、大丈夫」
漸く余裕が出来てきて、蓮は椿の言葉に反応する事が出来た。
「怖いですか?」
「大丈夫。
まさか空を飛んだり、浮いたりするなんて思ってなかったけど。
…花火、綺麗」
「ふふ、喜んでもらえたなら良かった。
お詫びになりましたかね」
お詫びじゃなくて、プレゼントのようだと言いたかったが、何だか少し恥ずかしくて言えなかった。
代わりに無言で頷く。
「てか、うちらの事、見られたら大変な事になるよな」
「だ~いじょうぶ、アンチバリア張ってますから、あたし達の事は見えないです」
「アンチバリア?
…まあ、見えないならいいや」
便利な魔法がいっぱいあるなと、思わず感心してしまった。
最後に一気に花火が打ち上げられ、大会は閉会したようだ。
「綺麗でしたね。
のんびりしながら花火を見たのなんて、いつぶりだろう」
首を動かして椿の顔を見ようとした蓮だったが、そのまま視線は前に向けたまま。
「平和な時代で、平和に過ごせるという事は、とてもいい事ですね」
重みのある言葉。
それは、彼女が様々な経験をし、いろんなものを見てきたからこそ。
「皆が幸せである事、それが我々、神々の願い」
椿は今、どんな顔をしながら話しているのだろう。
その声は優しくて、悲しげで。
でもきっと、泣きたい気持ちではない筈で。
「蓮、このまま飛んでホテルの近くまで行きましょう」
「ん、解った。
よろしく」
夜風と、まだ残る火薬の匂いと、椿の体温を感じながら、2人は帰路を辿るのだった。
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