見えた部分と見えない部分

第83話

「いやあ、人が凄いですね。

 賑やかなのはいい事です」


カップに入ったビールを飲みながら、ご機嫌な面持ちで椿が言う。


「祭りとか来たの、いつぶりだろ」


同じくビールを飲みながら、蓮も言う。


夜だが気温はあまり下がらぬまま。

人が多い事も手伝って、暑さは増してるし、体感温度も高い。


「…てか、浴衣暑くない?」


蓮の瞳に映るのは、淡い白地に紺碧色の朝顔があしらわれた浴衣姿の椿。

夜会巻きをした髪には、小さな花の髪飾りが。


「暑いっちゃ暑いですけど、慣れてますから大丈夫です。

 蓮も着れば良かったのに」


蓮は黒色のTシャツに、七分丈のスキニーにスニーカー。

ホテルを出る前に椿に浴衣を着ようと誘われたが、着慣れない格好はしたくないと断ったのだった。


「やだよ、暑いもん。

 てか、たこ焼き食いたい」


「さっきがっつり夕飯食べたじゃないですか」


「いいじゃん、食おうよ」


たこ焼きを買い、熱々のままいただく。

外はカリカリ、中はトロトロ。

2人でハフハフしながら食べ、熱くなった口にビールを流し込む。

ぷはぁっと息の揃った吐息が出ると、顔を見合せ笑った。


「花火大会、楽しみですね。

 さっきホテルの人にここから花火は見れるか聞いたら、見れるそうですよ」


「そうなん?

 花火大会も久々だな」


「お祭りとか苦手な方ですか?」


「いや、そうじゃないさ。

 行く相手がいなかっただけ」


「それかベッドの上でお祭り騒ぎとか?」


「あんたも花火と一緒に打ち上げてやろうか!?」


あながち間違ってもいない為、深い反論は出来なかった。


「そ、それよか、神様に挨拶に行くんだろ?」


「はい、ちょこっと挨拶に行ってきます。

 その間1人にさせてしまいますが、何かあったらすぐに呼んで下さいね。

 必ず飛んでいきますから」


「何もないだろうから、大丈夫だって」


「ナンパはしてもいいですけど、ホテルに行くならちゃんと連絡して下さいね」


「ナンパなんかしねえし、ホテルにしけこまねえから!」


蓮の反応が面白い為、からかいが過ぎてしまう。

しかし、それはご愛嬌という事で。


祭り会場である神社の奥に向かって行くと、本堂が見えてきた。


「じゃあ、行ってきます。

 1人にさせてしまってすみません。

 すぐに戻りますから」


「気にせんでいいって。

 ゆっくり挨拶しておいで」


手を振って別れた蓮は、そのままもと来た道を辿り、散歩がてら出店を見て回る事にした。

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