第80話

部屋にあった浴衣を持って、露天風呂へ向かう。

部屋を出るとずんずん歩いていく椿の後ろを、ゆっくり歩いていく蓮。

そんなに慌てなくても、風呂は逃げないのにとぼんやり思いながら。


露天風呂の出入口に木の看板が下がっており、それを裏返すと入浴中の文字が。

引戸を開けると、エアコンと扇風機の音が聞こえるのみ。

人気がないのもあり、一段と静けさを感じる。


入って右側にはトイレ、左側にドライヤーや鏡があるテーブルと、その近くに荷物を入れる籠が入った棚がある。

床は人工ラタンが敷かれていて、素足での踏み心地がいい。

奥の方に暖簾が掛かっていて、その先に風呂があるようだ。


持ってきていたタオルや浴衣、着替えが入った袋を籠にしまうと。


「ト、トイレ行ってから風呂行くから、先に行ってて」


「はいはい」


椿は特に気にせず、着ていた服を脱ぎ始めた。

蓮は脇目も振らず、いそいそとトイレに直行したのだった。


裸になった椿は、手ぬぐいタオルを持って風呂場へと向かった。


「わあ」


4~5人くらいは入れそうな石造りの風呂に、乳白色のお湯が湯気を漂わせながら静かに溢れている。

髪を束ね、体を洗ってから湯船に足から入り、ゆっくりと全身を浸からせれば、心身ともにとろけそうになる。

体がじんわりと温まって、ほぐれていくのが解る。


「やっぱお風呂はいいなあ」


小声で呟いてみる。


「この後のご飯も楽しみだなあ」


独り言を言い終わると、出入口のドアが開いた音がして、そちらを見れば、手ぬぐいタオルを縦に持ち、体を見えないように隠しながら入ってきた蓮がいた。


「遅かったですね、うんこでもしてたんですか?」


「オブラートに隠せ!

 うんこじゃねえわ!」


トイレから出た後、脱衣場でうろうろしながら、風呂場に行くタイミングを考えていたのは内緒だ。


「…あんまこっち見んなよ」


「別にいいじゃないですか、減るもんじゃないですし」


「気になるから見んなっての」


そう言うと、蓮は洗い場で椅子に座り、頭を洗い始めた。


すらりと長い手足。

無駄がない体だな。

お尻も小振りで、しゅっとしている。

モデルでもやったら良いのに。


風呂の端に背を預けながら、ぼんやりしていると、体を洗い終わった蓮が湯船に入ってきた。

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