第78話

耐えきれず落ちた椿を見て、ケラケラと笑う蓮。

ザバっと水面から顔を出した椿は、水で濡れた髪を直す。


「水も滴るなんとやらってか」


「折角綺麗にヘアセットしたのに、見事に大惨事じゃないですか!」


「頭にわかめ付いてんぞ」


「えっ、嘘!?」


「嘘に決まってんじゃん」


慌てて頭に触った椿を見て、更にケラケラ笑う蓮。

そんな蓮を見て、椿の瞳がギラリと光る。


両手を伸ばして蓮の両肩を捕まえると、それまで笑っていた蓮が止まる。


「今夜のお風呂、どうなるか覚悟しておいて下さいね」


薄ら笑いを浮かべる椿に、先程まで暑くて赤かった顔も青ざめていく蓮。


「隅々まで洗ってあげますから」


いつの間にか体を密着させられ、椿の片腕が蓮を包んでいる。




「可愛がってあげますよ、蓮」




耳元に口を近付けて言われた。

そして、椿の片手が蓮の太ももを撫でられる。



瞬間、蓮の顔がボカンと赤くなる。



「何言ってんだアホ!」


「おやおや、照れちゃって可愛いですねえ」


「太ももの付け根を触るな!」


暴れた蓮を解放してあげると、椿はケラケラと笑いまくる。


「あっはは、蓮は可愛いですねえ。

 やっぱりからかい甲斐があるし、弄ると楽しいです」


「いい加減、私で遊ぶのやめろっての!」


心臓に悪いからかいだ。

そして、その余裕な感じも狡い。

誰にでもこんな感じなのだろうか。

なんとなく考えてみる。


てか、神様は彼氏や彼女とかっているんだろうか。

はたまた家族とか。

そういう事は聞いた事はないし、話題にもあがらない。


こんだけ見た目が良くて、家庭的だから、周りも放っておかないだろう。

仮に付き合っている人がいたら、人間界に来て契約者と夫婦になる事になったら、どんな心境で受け入れるのだろう。


「ムッツリ蓮ちゃま、どうしたんですか?」


椿の声にハッとする。


「何でもな…誰がムッツリだ!」


「元気そうで良かった。

 もうちょいしたらあがりますか」


「えっ、あ、うん、解った」


「明日はプールですね」


「体力もたんよ。

 夜は祭りにも行くんだろ?

 プールか祭りか、どちらかにしよう」


「え~、折角なんですから遊び倒しましょうよ」


「私はそこまでの体力ねえわ」


「まあ、明日の蓮の体調を見て考えてあげます」




それから2人は暫く遊んだ。

蓮が浮き輪に乗って漂っていると、隙を突いて椿は浮き輪をひっくり返した。

当然、蓮もひっくり返る。


見事に仕返しをされた蓮は、しこたま椿を怒ったのだった。

魔法で乗せられた、頭のわかめに気付かないまま。

無論、椿は笑いを堪えきれはしなかった。

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