第77話

大人も子供も、皆楽しそうに遊んでいる。

気温が高いせいか、人が多いせいもあるのか、水温はやや温かかった。

しかし、火照った体を冷やすには丁度いい。


水着になったのも、旅行に来たのも、海に来たのも学生以来だ。

家族や友達や恋人と来たのではなく、神様と来る事になるとは。

人生とは解らないものである。


「蓮~、置いてかないで下さいよ~」


浮き輪を使って蓮のところまで来た椿は、早速浮き輪に乗った。


「ふわ~、気持ちいいですねえ」


「海に入ってても、頭がちょっと暑いな」


「糞温暖化のせいもありますわね。

 昔はここまで暑くなかったのに、今は異常気象が当たり前になってしまいましたし」


「あんたに『温暖化を止めろ』ってお願いしたら、叶えてくれるんか?」


「規模がデカすぎるから、ちょっと厳しいですね。

 出来ない事はないんですけど、時間はかかると思います。

 規約があるんです」


「人間社会と変わらんのな」


くくっと蓮が笑う。


「何でも出来るんだから、自由に生きる方が楽じゃないか?

 人間に手を貸さないで、自分の為に費やせばいいのに」


「神だから自由に出来る訳でもないですよ。

 さっき言ったように、規約や制約がありますからね。

 神になったからには、人間の手助けをするのは必須です。

 神は偶像だろと言われてしまうかもですが、目に見えないところで、力は貸してます。

 あとはそれを人間が、生かすか殺すかです」


「自分の為に生きたいって思わんの?」


「どうですかね、そういう事を考える余裕が無かったかもしれません。

 がむしゃらに今日(こんにち)まできましたから」


空を仰ぐ椿は、眩しそうな顔をする。

陽が椿の白い肌を照らし、輝きが増したように見えた。


「まあでも、蓮との日々は気楽に過ごせてます。

 気張りすぎなくていいから、気持ちも落ち着けると言いますか」


「私じゃ刺激が足らないんじゃない?」


「刺激が足らない分、蓮をからかって遊んだり弄ったりして満たしてますから」


「随分な物言いだな、おいぃっ!」


そう言うと蓮は、椿が乗っている浮き輪を力任せに揺らした。


「ちょおっ、何しやがるんですか!?」


「日頃の恨みだ、この野郎!」


「落ちる落ちる落ちる!!」


「落ちろ落ちろ落ちろ!!」

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