第76話

椿は右手を左手で隠しながら、ポンッと日焼け止めを出した。

掌に日焼け止めの液を出すと。


「ささっ、あたしが隅々まで塗ってあげますから、肌という肌を出して下さい」


「やめろ、自分でやるからいい」


「遠慮なさらず!

 背中は自分で塗れないでしょ?

 あたしにお任せ下さいって!」


「手付きがイヤらしいし、顔が何かを企んでるのが滲み出てるんだよ!」


椿の額を両手で全力で押さえる。

ここで負けたら、何を…ナニをされるか解らない。


「優しくしますから!

 おっぱいとかお尻とか、重点的に触ったろなんて思ってませんから!」


「欲望が駄々漏れじゃねえか!

 あ~も~、さっさと日焼け止めよこせ!」


「このトロットロの白い液体を、体に塗りたいんですか?」


「言い方!」


漸く椿から日焼け止めを引ったくると、乱雑に体に塗っていく。

が、どうにもこうにも、背中は塗れない訳で。


「………背中以外触ったらぶっ飛ばすかんな」


「最初から素直に、塗って下さいお姉様って言って下されば、喜んで塗りましたのに」


「さっさと塗らんと口の中に砂詰めんぞ!」


けたけたと楽しそうに笑う椿に背を向け、塗ってもらうのを待つ。

と、背中にひやりとしたものと、椿の掌の温もりが同時に触れた。


柔らかな掌が蓮の背中を、ゆっくりと滑っていく。

くすぐったいのに、少しだけ気持ちよくて、小さくピクッと動いてしまう。

そんなのがバレたら、椿に何を言われるか解らない。

出来る限り我慢をするしかないのが現状。


「お、おい、早くしろって」


「もうちょいで終わりますから、大人しく待ってて下さいって」


背中から腰へ、手が滑っていく。

何だか恥ずかしくなって、頬が赤くなる。

邪な事なんて考えてない。

考えてなんて…ない。

早く…早くこの時間が終われ。

そう願う事しか出来なかった。


「よっしゃ、終わりましたよ。

 煙草休憩、行ってらっしゃい」


「…煙草はいいや。

 海に入りたい」


海に入ったら、顔の火照りと気持ちは落ち着くだろうか。


「解りました、じゃあ行きましょう」


立ち上がった椿がパレオを外すと、蓮の視界には椿の下半身が(無論、パンツは履いている)

咄嗟に顔を反らしたが、椿にしっかり見られていた訳で。


「蓮はスケベですね」


「うっさい!!」


勢いよく立ち上がった蓮は、パラソルに頭をぶつけながらも、ずんずんと歩いて海の方へ行ってしまった。

そんな蓮を笑いながら、椿も海へ向かったのだった。

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