第75話

暑いな


パラソルの下で陽を避けていても、暑いものは暑い。

砂からジリジリと熱が上がってくるし、汗は止まらない。

水分補給がてら、先程買ったお茶を飲んでいるが、このままでは2本目を購入しに行くのも時間の問題だろう。


煙草を吸いに行きたいが、迂闊に動くのも忍びない。

大人しく待つかと諦めた頃、急に周りがざわめきだす。

どうしたのだろうかと周囲にいた人達を見てみると、皆同じ方向を見ていた。


「あの人、モデルかな?」


「女優であんな綺麗な人、いたっけ?

 いたなら絶対忘れねえわ」


「つか、この世に舞い降りた女神様じゃね?」


まさかな。

そんな事を思いながら、蓮も視線をそちらに移せば、人々から熱い視線を受けながら歩く椿の姿があったのだった。


麦わら帽子の下には、緩く束ねた髪が揺れていた。

絵に描いたような白い肌には、白い三角ビキニが。

大きくて張りのある胸は、たおやかな果実のよう。

しなやかな腰には、パレオが柔らかく風に靡いている。

長い脚。

折れそうな足首には白のサンダル。

目元には大きな丸型のサングラスをしていて、何処か妖しげで。


男女問わず、その視線を独り占めしながら闊歩する椿を見て、淡い溜め息を吐いた。

蓮は違う意味で、こめかみを押さえながら溜め息を吐く。




こんなに注目されちまったら、遊びづらいし変な輩に絡まれる事、間違いなしじゃねえか。




そんな蓮の心配をよそに、椿は蓮を見つけると小さく手を振った。

一斉に蓮に注がれる視線を、痛いくらいに感じる。

蓮は手を振り返さずに下を向いた。


「お待たせしちゃってすみません。

 魔法でちょちょいっと済ませようと思ったんですが、人が来ちゃったので出来ませんでした」


「そうっすか。

 …てか、神様は大注目の的じゃんよ。

 あんなに沢山の人に見られて、こう恥ずかしいとか照れくさいとかないんか?」


「んなもん、レイヤーは気にしないですし、むしろ好きなだけ見て下さいってもんですよ。

 見られてなんぼですし」


「1ミリでもしおらしさを期待した自分がアホみたいだ」


「何か言いました?」


「何も言ってないっす」


何かを諦めた蓮は、椿にお茶を渡した。


「私は煙草を吸いに行きがてら、新しいお茶を買ってくるよ。

 泳ぐなら行ってていいから」


「一緒に泳ぎましょ、待ってますから。

 てか蓮、日焼け止め塗らないと、ウルトラ上手に焼けちゃいますよ」

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