第66話

「旅行とかどうですか?

 あとは最近流行ってるキャンプとか」


「キャンプは道具を揃えたりしなきゃだから却下かな。

 旅行いいなあ」


「南の方は暑いですから、北の方に行ってみるとか。

 あとは海の方に行くか、山の方に行くかでも変わってきますね。

 移動手段は目的地によりますし」


「やっぱ海の方に行きたいかな。

 美味い刺身とか食いたい」


聞きながら、椿はスマホを弄る。


「東北とか如何ですか?

 福島とか、宮城とか。

 そんなに遠くないですし、新幹線でびゅ~んと行けますよ」


「お、いいねえ。

 新幹線って乗った事ないんだ。

 けど、ホテルとか取れるんかな。

 何なら、ホテルじゃなくて民宿でもいいんだ」


「ちょいとお持ち下さいね…ん~、安いホテルはもう埋まってますね」


「時期的にそうだよなあ」


「よし、折角ですからお高いホテルに泊まりましょう」


口に含んだウーロンハイを、ぶほっと吹き出した蓮は、口を拭かずに椿の方を見る。


「ちょ、おいぃっ、いくら貯金があるって言ったって、無駄遣いは出来ないっての!」


「ノンノン、ご安心下さい。

 経費で落とせる範囲のとことに泊まれば、何も問題ナッシングですって」


「私の一人旅に、そんな高い金を掛けれんって!」


すると、椿はスマホを見るのをやめ、蓮の顔を見る。

その表情は『何を仰るうさぎさん』だった。


「蓮、1人で旅行に行かれるんですか?」


「あんたはピアスの中にいれば問題ないし、結果的に一人旅になるだろ?」


「はぁ~あ、つまらんしつれないしつまらんですね」


「重ね重ねつまらんって言うなよ」


「あのですね、あたしも旅行に行くに決まってるでしょうが!」


「え、行くの?」


「あったり前でしょうが!

 何が悲しくて、蓮が旅行に浮かれている中、あたしは1人寂しくピアスの中で膝を抱えてなきゃいかんのですか!

 それに、1人より2人の方がお安いプランだってあるんですよ!

 ほれ、このプランを見てみんしゃい!」


ずずいっと蓮の目の前に突き付けられた携帯の画面を見てみると、そこにはー



『超お得カップルプラン!

 海の見えるお部屋で美味しいお料理を満喫!

 更に5000円プラスで、貸し切り露天風呂も!』



見終わってから椿を見ると、それはそれは見事なドヤ顔をしながら蓮を見ていた。

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