第63話

今日も店は賑やか。

美味しそうな匂いが、キッチンから漂ってきて、腹の虫も反応をする。

前回と同じ、カウンターの席で並んで座り、とりあえずの生を頼んだ。


店員がジョッキ2つを持ってきて、後からお通しを持ってテーブルに並べていった。

それぞれジョッキを持つと。


「じゃあ、私がニートになった記念に乾杯」


「んな自虐的な…。

 地獄から逃げ帰った記念でいいんじゃないですか?」


「ははっ、確かに地獄からの生還かも。

 とにかく乾杯」


ジョッキを鳴らした後、ごくごくと音を鳴らしながらビールを飲む。


「ぷっへえ、ビールうまぁっ」


「ご機嫌さんですね、蓮。

 顔も声も明るくなった気がします」


「そうかな?自分じゃ解らんよ」


半分くらいビールを飲むと、蓮はジョッキをテーブルに置く。


「まあでも、気持ちは晴れやかかな。

 心が軽くなったって、きっとこういう事を言うんだろうな。

 あ~も~、早く辞めれば良かったわ。

 こんな辞め方をするなんて、夢にも思ってなかったけど」


「どんな形にせよ、辞めて自分を守る事が出来たんですから、結果オーライですよ。

 今だから言いますが、蓮が鬱になったりしたら、どうしようって心配してましたし」


「現代人の大半は、鬱因子を抱えながら生きてんじゃないかな。

 景気も良くないし、心に余裕を持って生きるのも難しいし。

 出口のない人生ゲームを、手探りで生きてるようなもんだよ」


「難しい問題ですね。

 我々神の力を使って景気を回復させる事は容易いですが、そうもいかんのです。

 シーソーよりアンバランスだから、慎重になりすぎてしまって、手を出せない神も多いですし。

 すいませ~ん、生2つ~!」


蓮も残りのビールを飲み干して、ジョッキを空にすると、ジーパンのポケットから煙草を取り出して吸い始めた。

程なくして、本日2杯目のビールが運ばれてきた。

料理を頼み終え、椿は新しいジョッキに口を付けた。

その飲みっぷりを見て、蓮はクスっと笑う。


「さ~て、はれてニートになったし、明日からアラームに起こされる事もないし、何して過ごすかな。

 貯金もあるし、ちょっと体を休めるかね」


「何かしたい事や、やってみたい事はないんですか?

 完熟マンゴーの段ボールを被ってライブやりたいとか、異世界に転生して新しい人生をエンジョイしたいとか」


「んな事やりたかねえわ!

 何で完熟マンゴーなんだよ」


「話すと(かなり)長くなりますが、お話ししましょうか?」


「……お気持ちだけいただきます」

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