第62話

蓮からスマホに連絡があったのは、17時を過ぎた頃だった。

連絡がきた事に、ホッとした椿の肩の力が抜ける。


「この前行った居酒屋に行こう。

 待ち合わせは、居酒屋がある駅でいい?」


「解りました、では後程」


出掛けるなら着替えないと、と魔法で服を着替える。

白のオープンショルダーブラウスに、黒地に大きめな花がプリントされた薄手のスカートをチョイス。

ブラウスは鎖骨下や背中回りに、大きなフリルが着いていてお気に入りだ。

足元は黒のフリルが着いたサンダルにした。

髪はサイドで緩く束ね、首元には一目ぼれした花のトップが可愛いネックレスを。


よし、家を出るか。

夕方だが、まだまだ明るい。


駅に向かうにつれて賑やかになり、あちらこちらから楽しそうな話声や笑い声が聞こえてくる。

それらを聞きながら、駅に向かい、電車に乗った。


待ち合わせ場所の駅に着き、改札を出て駅を出る。

駅周辺は先程よりも賑やかで、人の数も多い。


見渡してみても蓮の姿が見えない為、意識を飛ばして蓮に連絡を入れようとすると。


「お~い」


ちょっと離れたところから、椿に手を振る短髪の人物が見えた。

声は蓮のものだが…。


首を傾げていると、その人物は椿の前で足を止めた。


「…蓮っ、髪!?

 行きたいところって、美容室だったんですね」


セミロングくらいの長さがあった髪は、ショートボブになっている。

襟足は耳の後ろくらいの長さで、サイドは耳に掛かるくらいだ。

目の下よりも長かった前髪も、眉毛にかかるくらいの長さに。

パッと見は、綺麗なイケメンお姉さんと言った感じだ。


「切っちゃった」


はにかみながら言う蓮が、いつもより幼く見える。


「失恋でもしたんですか!?」


「何でだよ!?

 心機一転だよ!」


反応はいつも通りだった。


「髪をこんなに短くしたの、初めてなんだ。

 首がめっちゃス~ス~する」


首筋を触りながら、照れた顔をする蓮。


「『朝顔と加瀬さん』の加瀬さんみたいでグッジョブですよ!」


「また訳の解らん事を」


「超最高で尊い♀×♀の恋愛漫画です!

 知らないなら後で一緒に観ましょう。

 解説はお任せあれですよ!」


「うっさそうだからいいや。

 それより、早く店に行こう。

 予約はさっきしといたから」


「あ、はい、解りましたっ」


重かった足取りは軽く、暗かった表情は明るく。

まさに『憑物が取れた』ようだった。


そんな蓮を見て、椿は安心を噛み締め、少しだけ瞳を潤ませたのだった。

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