第58話

「どうして水野さんはキレたの?」


課長が当たり障りなく聞いてくる。


「……気分を害する事を言われたので」


「中田さんは何て言ったの?」


お局はニヤッと笑うと。


「水野さん、女の人と付き合ってるみたいだから、どんな人なのかを聞いてみたんです」


その言葉を聞いた課長は、開いた口を閉じれずにいた。


「付き合ってる人の事を聞くくらい、いいじゃないですかね~」


「え、いや、それは、そうかもだけど、人にはいろんな、その、事情があるだろうし」


課長にも向けられる目線が不快だ。

どちらに対しても、蓮は目を吊り上げる。


「水野さんも、ほら、そんなに怒らないでさ。

 きっと中田さんも、軽い気持ちで聞いてだけなんだよ」


「何で先程から中田さんの事ばかり庇うんですか?」


「い、いやいやそんな事ないよ。

 僕はこの場が穏便に済めばいいなって思ってるだけ…」


「穏便に済むと思ってんのか?」


「え?」


「穏便に済むと思ってんのかって聞いてんだよ」


ドスの効いた、低い声で蓮が言った。

お局も課長も、思わず息を飲む。


「あんたら2人、糞過ぎて話になんねえよ。

 おい課長、私が散々このクソババアに意地悪されてたの、何で見て見ぬふりばっかしてきたんだよ」


「そ、んな事はないさ。

 相談にものってあげてたじゃないか」


「話なんて右から左で、まともに取り合ってくれた試しなんてなかったじゃないか。

 大体何でそんなにクソババアの肩を持つんだよ。

 弱味でも握られてんのか?

 それとも付き合ってんのか?

 後者なら不倫だよな」


お局も課長も、ぎくりとした顔になる。

何も言わずに、気まずそうに視線を反らす課長。


「あ~、ビンゴなんすね。

 普段は強気なクソババア様も、大好きな課長の前ではニャンニャンするんすか?

 おいこら、答えろや。

 私には散々言ってきたのに、自分の事になったらだんまり決め込むんか?」


周囲の視線は、一気に2人に向けられ、ひそひそ話があちらこちらから聞こえてくる。


「おいクソババア、黙ってねえで何か言えよ。

 謝罪もまだ聞いてねえんだわ」


「す、すみませんでした…」


「いつも私に嫌味を言ってる時みたいな大きい声で、きちんとした謝罪が欲しいんですけど」


「も、申し訳ございません…。

 もう2度と話し掛けませんので…」


「話し掛けなくても、あんたが視界に入るだけで虫唾が走るんだよ」


お局は青ざめながら俯く。

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