第56話

見せられた画面を、蓮はただ見つめる。

機嫌が良かった椿が、蓮に腕を絡めているところだった。

なんて事はない、いつもの出来事。


「腕まで組んじゃんて、すんごい仲良しなのね。

 仲睦まじいってやつ?

 凄く綺麗な人だけど、何処で知り合ったの?」


面倒くさいな。

たとえ椿と付き合っていたとしても、それをお局にご丁寧に説明する必要はない。


何も言わずに黙ったままでいると、お局は更に楽しそうな顔をする。


「ねえねえ、付き合ってるんでしょ?

 女同士で付き合うのって、どんな感じ?

 お相手さん、凄くいい体してたよね。

 ちょっと離れたところから見ても、解ったもん」


作業に戻りたいのに、よりによって振られた話題がこれとは。

大きな溜め息を吐いてみる。


「さっきから黙ったままだけど、何か問題でもあった?

 話しづらい事なの?

 話したくないのかな?」


さり気なく圧力を掛けてきた。

が、それを真に受けるつもりはない。


「水野さんって、そっちの人なの?

 もしかして、男の人と付き合った事がないとか?」


興味なのか、意地悪なのか。

周りの人達も、聞く耳を立てているのが解る。


気持ちを落ち着かせなくては。

そう自分に言い聞かせてみるが、この状況下で落ち着けという方が無理だ。


『蓮、大丈夫ですか?』


見かねた椿が声を掛けてみる。


『……。』


蓮から返事がなく、どうしたものかと椿も考える。


『蓮、落ち着いて下さい』


『…落ち着いて、何か解決する訳じゃないだろ』


そう言われてしまえば、それまでなのだが。

相手が蓮にどんな反応や反論を期待しているのか、解らないのも痛手だ。


「ねえ、やっぱそういう事もするんでしょ?」


すぐに察する。


「ベッドの上では水野さんが上?

 それとも下なの?」


静かな怒りがこみ上げてくる。


「それとも、あの女の人に可愛がってもらうの?」


気持ちを、心を逆撫でるような言い方。

全身の産毛が、逆立ちそうな怒りが、蓮の体を駆け巡る。


「あの女の人、慣れてそうな感じだもんね。

 いやらしい感じの体だったし」


気付いたら、拳を握っていた。

この拳をお局にぶつける事が出来たら、どんなに精々するだろう。

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