第54話

いつものように家を出て、

いつものように手を繋いで、

いつものように歩いて駅まで歩いて。





彼女はいつも乗る電車を見送った。

声を掛けても、こっちを見なかった。

手は少し震えていた。





おかしいな

気付いたから、『どうしたの?』

彼女は何も答えなかった。





暫くして、また電車が来る。

特急はここの駅には停まらない。





彼女は繋いでいた手を、するりと放した。

彼女がやっとこちらを見た。

光のない目が泣いていた。





嫌な予感がした。

手を掴もうとした時には遅くて。





「バイバイ」





止まらない特急は、飛び出した彼女を壊した。

すぐそこにいた彼女は、遥か遠くにバラバラに飛ばされた。





そこからは、あまり覚えていない。

断片的な記憶しかない。

自分で蓋をしてしまっているんだろう。






そんな事があったから、蓮も同じ道を辿ってほしくない。

あんな悲しい過ちは、2度と起こしたくないから。

エゴと言われてもいい。

守れるなら、全力で守りたい。





ねえ蓮、強がりはいらないんだよ。

貴女自身を犠牲にしてまで、いなきゃいけない場所じゃないのだから…。





あたしに出来る事があったら、迷わず言ってね。

生きて、生きて、きちんと貴女の人生を全うしてほしいから。






蓮、あたしは頼りないかもだけど、

いつだって心配してるんだからね…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る