第52話

朝礼を終えて、持ち場に行って。

指示書を配って、昨日の進捗と照らし合わせて。

パートやバイトの方々に指示を出して、自分も作業を始めて。


変わりのない作業と、変わり映えのない時間。

こめかみの辺りがピリピリする感じが苦手で。

まだこの時間は大丈夫。

まだ1人の時間だから。


黙々と作業に集中する。

今日は梱包作業だから、そこまで慌ただしくもない。

組み立てた段ボールに、梱包された商品を入れて、段ボールの蓋を閉めたらガムテープを貼って。

送り先がプリントされたラベルを段ボールの側面に貼ったら、パレットに乗せて。

それらを、ただひたすら繰り返す。


段ボールをパレットに乗せる動作が、地味に腰にくるんだよな。

年齢関係なく、やや屈みながら乗せるのが辛い。

作業台が低いから、余計に負担がかかるのだ。


以前、課長に改善してもらう事が出来ないかと相談した事があったが、『お局さんと、背が低い人もいるから難しいかなあ』と、やんわりと断られた。

意見や質問があったら言うようにと言われていたが、言ったところで門前払いを喰らうのであれば、最初から言わない方がいいと学んだ。




午前の休憩時間になり、作業していた手を止めて、蓮も休憩する事に。

外の喫煙所に向かい、作業着のズボンのポケットから、煙草とライターを取り出し、素早く煙草を口に咥えて火をつける。

どんよりとした湿気まみれの空気に、白い煙が消えていく。


もう片方のポケットから小銭を取り出し、近くにある自販機でアイスコーヒーを買って、乾いた喉に流し込んだ。

ほろ苦さと、ちょっとの甘さが喉を通り抜けていく。


『蓮、大丈夫ですか?』


脳内に伝わる、椿の声。

これにもすっかり慣れたから、戸惑う事もなくなった。


『まあ、ぼちぼちでんな』


心の中でそう思うと。


『あまり無理しないで下さいね。

 ちょっと顔色、悪くないですか?』


会話はきちんと成立する。


『ちょっと頭痛いけど、大丈夫。

 昼飯食い終わったら、薬飲むかな。

 今日はお局は午後から出社だし、今の内に仕事も進めんと』


『…無理はしちゃ駄目ですからね。

 あたしは蓮の傍にいますから、何かあったらすぐに言って下さいね』


『ほいほい、解ってるよ』


吸い終わった煙草を灰皿に捨て、コーヒーを飲み終え、回収箱に捨てると持ち場に戻った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る