梅雨が明けたら

第51話

冷房や除湿をつけていても、何となくジメジメする。

汗ばんだ肌が、やっぱり不快で。

けれど、シャワーを浴びてもまたすぐに汗をかくのだから、無意味なのは解っている。


「蓮~、そろそろ家を出る時間ですよ~」


「へいへい」


テレビでは天気予報士が、今日の天気を聞き取りやすい声で伝えている。

耳を傾けると『今日か明日にでも、関東でも梅雨明けの発表があるかもしれません』

まだ湿気が多いし、天気も曇りや雨がメインだが、それともあと僅かでおさらば。

が、本格的な暑さがやって来るのだから、それはそれで滅入ってしまう。


通勤用のバッグを持ち、肩に掛け、テレビの電源を落とそうとリモコンを持つと、『今日の占いコーナー』が始まった。


「れ~ん~…って、占い見てるんですか?」


「いや、テレビ消そうと思ったら始まったからさ」


今日の最高位はおとめ座だそうだ。

では、最下位委は。


「あ、今日は蓮は最下位ですね」


『口は災いの元。

 焦らず冷静に対処しましょう』


大きなお世話じゃんと思った蓮だったが、テレビに向かって言っても仕方がないので飲み込む。


「梅雨明けは間近ですけど、まだまだ蒸し暑いですね」


「蒸し暑さが終わったら、夏本番の暑さが待ってるし、どっちにしても暑い事には変わりないって」


「暑かったらお酒が更に美味しく飲めますよ」


「それはそうだけどさ」


何て事のない会話をしながら、会社を目指す。

灰色の雲が空を覆っているし、仕事に行かなきゃいけない憂鬱さがまとわりついて鬱陶しい。


「ほらほら、乗る電車に間に合わなくなっちゃいますよ。

 急いで下さいな」


椿に促されるも、足取りは重い蓮を見て、椿は少し考える。


「今日の夕飯は蓮の好きな、ハンバーグにしましょう。

 だから、お仕事頑張って下さい」


「食いもんで釣れるのは、小学生までだぞ」


「あたしは何百年と生きてますが、食べ物と料理に釣られますよ」


「威張って言う事でもないっしょ」


笑う蓮を見て、椿は胸を撫で下ろす。


「占いの事、気にしてるんですか?」


「占いとか、信じないって。

 サボりたい気分なだけだよ」


「じゃあ、サボります?」


ニコっと笑う椿を見て、蓮は頭の後ろの方を指先でポリポリと掻く。


「今更会社に『休む』って連絡を入れんのもめんどいって」


「そうですね、じゃあ行くしかないですね。

 ちゃんと仕事に行って偉いです」


「褒められても嬉しくねえっての」


苦笑いを浮かべるも、足は歩き慣れた駅を目指す。


「では、この辺であたしはドロンしま~す。

 道中、気を付けて下さいね」


いつもの場所で、椿はピアスの中へ。

蓮は素知らぬ顔で、駅の改札を抜けてホームを目指した。

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