第46話

「彼は戦死し、それから少し経ってから終戦を迎えました。

 あたしはまた、新しい契約者の元へいくのですが、飢餓で亡くなる方が多かったです。

 皆、必死でした。

 今を、未来を生きる事に。

 残された意味を、噛み締めるように…。

 やがて、少しずつゆっくりと、時が、時代が進んでいき、漸く平和な時代がやって来た。

 かと思えば、今度は『ストレス』で自死をする方が増えていった。

 そして、病死も…。


 こんなにも物が溢れていて、こんなにも食べるものがあって、何も不自由がないのに。

 会社、学校、家庭…様々な理由で、自らの命を絶ってしまう方が多かった。

 静かに人生を全う出来た方は、ごくごく僅かでした。


 あたしの仲間も、心を病んでしまう方が多かった。

 激動の戦時中、神になるのを辞めた方も何人もいます。

 そういう事もあり、少しずつ神も体制が変わっていきます。

 契約者が亡くなったら、休暇を設ける事になったのも、その頃でした。


 産まれ、生きて、死んでいく。

 そして生まれ変わり、この世に生を受ける。

 輪廻転生というやつですね。

 神はこれからも、それを見届けなくてはならない」



深く、重い話。

辛く、言葉を掛ける事も出来ないくらいに。


「蓮と契約を結ぶ前に、契約していた方は、残念ながら過労死で亡くなりました。

 会社を辞める事は出来た筈なのに、それもしないまま追い詰められてしまった。

 あたしは自分の出来る事はしましたが、結果は悲しいものになってしまいました。

 …命は1つしかないのに」


ああ、そうか。

彼女が頻りに私の仕事、会社の事を気にしてくれてたのは、その事があったからだ。

蓮の心が、きゅっと切なくなる。


「…私はどんなに辛くても、自ら命を、生きる事を投げ出したりはしないさ」


ふと、呟いた。


「人間は神様に救いを求めて救ってもらうけど、神様の事は誰が救ってくれるんだろうな」


求めるばかりで。

与えてもらうのが、当たり前のようで。

祈ってるんだから、供え物をしてるんだからは、理由にならない気がして。


「そんな風に言う人、初めて見ましたよ」


笑った顔に切なさを覚えて、またきゅっとなる。


「蓮は優しいです。

 優しすぎますね。

 自分にもその優しさを、少しでいいから向けて下さい」


そっと頭を撫でてくれたその手は、いつもより優しく、温かった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る