第43話

タクシーを降り、目的の店に着いた。

少し古い建物で、色褪せた暖簾が味を出していていい。


「じゃあ、入りましょうか」


「う、うん」


先に店に入ったのは椿で、その後を続いたのは蓮。


「予約していた水野です」


椿が店員に声を掛けると、カウンターに通された。

6人分の席があり、その内の2席は既に埋まっている。


店内を軽く見てみると、テーブル席が4席程あり、奥に少し広い座敷の席がある。

広くはない店内は、半分の席が埋まっていて賑やかだ。

仕事終わりであろう、スーツを着た男女が、楽しそうに話しながらビールを飲んでいる。


「こちら、本日のお通しとおしぼりです。

 お飲み物は何になさいますか?」


感じの良さそうな女の店員がやってきた。


「蓮、生でいいですか?」


「あ、うん」


「じゃあ、生2つで」


オーダーを聞いた店員は足早に去り、程なくしてジョッキに入った生ビールを2つ持ってやって来た。


「食べ物のご注文はお決まりですか?」


「じゃあ、これとこれと…あ、あとこれも下さい」


「かしこまりました!」


椿がオーダーしてくれて、蓮は胸を撫で下ろす。


「蓮はこういうやり取り、苦手かなと思ったので。

 他に何か食べたいものがあったら、遠慮なく言って下さいね」


「すまん、ありがと」


「ではでは、乾杯しますか」


ジョッキを持った椿につられ、蓮もジョッキを持つ。


「お疲れ様した」


「お疲れ」


ジョッキとジョッキを鳴らして乾杯。

それぞれキンキンに冷えたビールを、喉に流し込んでいく。


「ぷっへえい、あ~最高!」


「生なんて、久々に飲んだわ。

 やっぱ美味いな」


「あたしは毎日生飲みたいですけどね。

 レンタルビールサーバー、借りちゃいますか」


「…あんた専用のサーバーになりそうだな」


「じゃあ、公平にすべく、1人1台サーバーを借りましょう」


「無駄使いすんな」


ケラケラと楽しそうに笑う蓮を見て、椿は微笑む。


「今日はクソババ…お局が休みで良かったですね。

 嫌な気持ちにならずに済んで、何よりです」


「ご褒美デーだよなあ。

 仕事が終わったら、飲みにも行けてさ。

 …行くの渋って悪かった」


「結果的に2人でこうして来れたんですから、問題ないですよ。

 それに、こういうご褒美デーは大事ですから」


週末の解放感の大きさ。

無事に1日を終えれた達成感。

美味しく酒を飲める一時。

何もかもが、新鮮に思える。


「神様も友達と飲みに行ったりするん?」


「契約がなく、休みの時はありますよ。

 まあ、なかなか予定が合わないんですけどね」


「神様にも休みってあるんか」


「昔は無かったんですが、今はリフレッシュ休暇が出来ました。

 いやあ、昔はブラックだったなあ。

 あ、すみませ~ん、生おかわり~」

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