第30話

煙草を灰皿に捨てた蓮は、最後の煙を吐きながら椿を見る。


「自称神様が何かしてくれんの?」


「自称じゃないってば!

 あたしが蓮に力を貸してあげますよ」


「力?」


きょとんとする蓮に、椿は意味深な笑みを浮かべながら。





「神様に祈るのです!!」





1秒

2秒

3秒

10秒が経過


換気扇は無心で羽を回しているし、時計は時を刻んでいる。

そんな中、2人の空間は無を醸し出していた。


呆気に取られている蓮は、いよいよ何を言っていいのか解らなくて、口を開けたままの状態だ。

祈れ?こいつ本気で言ってんのか?アホの子か?いやアホだアホ。

椿の自信に、蓮は左手でこめかみを押さえる。


「ちょちょい蓮さんや、何か反応を下さいよ」


「…どう反応しろってんだよ」


「何でそんなに呆れてるんですか?

 あたし、何かおかしな事でも言いました?」


「大いに言ったじゃねえか!

 神様に祈れって、結果民間療法みたいなもんじゃねえか」


今度は椿がきょとんとする。


「祈りは届きますよ?

 現に今、蓮の目の前にいるのは神様です。

 貴女の祈りは、あたしにしっかりと届きます」


「見習いに何が出来るんだよ。

 一緒にハローワークでも行ってくれるんか?」


「んな事よりももっとすんばらしい事が出来るわ!

 いい加減、あたしをへなちょこに見るの、おやめやがれ!」


蓮は煙草を取り出し、火をつけると、冷蔵庫から缶ビールを取り出した。


「あ、あたしも飲みたい!」


「一本しかないっての。

 つか、神様はおビールもお飲みになるざんすか」


「ビールも日本酒もウイスキーもどぶろくも何でも好きですわ!」


椿の話を無視して、蓮はプルトップを開けて一口飲む。


「あ~っ、神様であるあたしを差し置いて、お疲れさんビールを飲むなんて酷い!」


「うっせえな、魔法で出せばいいじゃんよ」


二口目を飲もうとすると、素早く椿の手が伸びた。

見事にひったくられたビールは、椿にぐびぐびと飲まれてしまった。


「わ、私のビール!?」


「ぷっへえ、うんめえ!」


手の甲でぐいっと口元を拭く動作は、おっさんのそれだ。


「返せよ、私のビール!」


「いやん、蓮はあたしが口を付けたこの缶ビールが欲しいんですのん?」


ほれほれと見せびらかしてくる椿は、とても楽しげだ。


「…いいよ、やるよ」


「わ~い、やったあ!」


「私は缶チューハイ飲むからいい」


「まだ酒あるんかい!」


蓮はもう1度冷蔵庫を開け、缶チューハイを取り出す。

飲もうとすると、椿がニコっと笑いながら缶を持ち上げる。

意味を理解し、蓮は椿の缶にこつんとぶつけ、乾杯をした。

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