第28話

膨れた腹を摩りながら、ふと台所の方を見れば、椿が洗い物をしている。

目が合うと、ニコっと笑う椿を見て、蓮は自身の後頭部をポリポリと掻く。

そして、おもむろに立ち上がると、台所に向かった。


「どうしました?」


ちょうど洗い物を終えた椿が、蓮に声を掛ける。


「煙草吸おうと思って」


椿の後ろを通って、冷蔵庫の上に置きっぱなしの煙草を取り、箱から一本取り出すと口に咥え火をつける。

換気扇をつけ、冷蔵庫にもたれながら煙草を吸い始めた蓮は、ぼんやりと椿を見る。


「…どうして、そんなにあれこれしてくれるん?」


「何がですか?」


「飯作ってくれたり、家の事をやってくれたり。

 どちらかと言えば、神様は『やってもらう側』じゃん?」


「家事は好きだから、勝手にやってるだけですよ。

 あ、もし迷惑でしたらやめますね」


「いや、迷惑じゃない、けど。

 こうほら、やらせっぱなしだし、申し訳ないなって」


立ったまま話を聞いていた椿は、蓮の右隣に腰を下ろす。


「あたしがしたいからしてるんですよ。

 それに、神様だからってやってもらう側でもないです。

 気にさせてしまいましたかね、すみません」


「謝る事はないじゃん。

 むしろ、こっちがお礼を言わんといかん方だし」


「お礼を言われる程の事はしてませんて」


そう言って椿は笑ったが、ふと思い出したかのような顔をしたかと思えば、急に真顔になって蓮を見る。


「仕事、辛くないですか?」


いきなりの質問に、少々驚く蓮。


「どしたよ、急に」


「いえ、昼間の事を思い返していましたが、やはり今の環境は蓮にとって良くないなと思いまして。

 蓮が我慢をする必要はないと思うんです」


「あ~、う~ん、まあなあ…。

 お局もいつかは、私をいじめんの飽きるって」


「いつ飽きるかなんて、解らないじゃないですか。

 そもそも、何であんな風な事をされるようになったんですか?」


ふ~っと煙を吐いた蓮は、一拍置いてから。


「…前、同期がお局にいじめられてて、それをやめるように言ったら、ターゲットが同期から私に変わったんだ。

 その同期も、結局辞めちゃってさ。

 お局がいないところではみんな話してくれるんだけど、なかなかどうして、自分がいじめられたくないから、距離感はきっちりしてるけどね」


椿は蓮の話を、耳を澄まし黙って聞いている。

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