第27話

買い物を済ませ、真っ直ぐ家に帰宅する。

椿は慌ただしく買ってきた食材を冷蔵庫にしまったり、風呂の用意をしたり忙しい。

蓮はやる事がなく、部屋着に着替えてからベランダで煙草を吸う。


何でもかんでも神様にやらせるのは、流石に申し訳ない。

何かする事はないかと椿に問うたが、椿は笑って『気持ちだけいただきます、ゆっくり休んでいて下さい』


風呂の準備が出来たと呼ばれ、ありがたく一番風呂をいただく。

湯船に浸かり、1日の疲れを湯と共に流す。


振り返る程の楽しい出来事は無い。

が、自分の生活の中に現れた神様の存在が、なかなかどうして面白い。

そして、優しくしてくれるのが、嬉しいのも否めない。


風呂から上がれば、部屋の中が料理の香りで包まれていた。

然程なかった食欲が、少しだけ増したのを感じた。


仕度を終えてリビングに行けば、テーブルにはサラダが用意されていて、椿が出来たてのオムライスが乗った皿を持ってきた。

オムライスには、ケチャップでハートが描かれていた。


「ささっ、召し上がって下さい」


「…何故ハート?」


「オムライスと言ったらメイド喫茶。

 メイド喫茶と言ったらオムライス。

 あ、呪文唱えましょうね。

 美味しくな~れ、もえもえキュンッ」


ご丁寧に振り付けまでやって下さったが。


「まあ、呪文を唱えなくても、あたしのオムライスは美味しいんですけどねっ」


ふんすと鼻を鳴らしながら言う椿を見て、この自信はどっからくるんだろうと蓮は思った。

実際、椿の料理は美味いから、否定する事は出来ないが、どや顔に軽くイラっとする。


「何はともあれ召し上がれ」


「…いただきます」


用意されたスプーンで、オムライスを食べやすい大きさに切り分けると、口に運んだ。

トロっとした玉子と、程好いケチャップライスの酸味が口の中に広がる。


「…うまっ!」


「ふふんっ、もっと褒めてくれていいんですよ?」


更にどや顔をしてみせる椿をよそに、蓮はパクパクと食べていく。

サラダもスープも食べて、気付いた時に食べ終わっていた。


「ご馳走様でした」


両手を合わせて言うと、椿は『お粗末様でした』

蓮が食べる姿を黙って見ていた椿は、蓮が完食した事に微笑む。


「食べたら元気になりました?」


「んだね、お腹も心もいっぱいだわ」


言いながら、自身の腹を摩る蓮を見て、椿はもう1度笑った。


「ねっ?

 食べると元気になるでしょ?

 少しでもいいから、なるべく食べて下さいね」


椿は立ち上がると、食器を片付け始めた。


「自分でやるよ」


「いいから座ってて下さい」


お言葉に甘えた蓮は、ベッドの端に背中を預けた。

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